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2.永久死体、屍蝋

<金田一少年の決死行より>

屍蝋(しろう)とは何だ?  と思われた方もいるだろう。確かに、ミステリー物だけでなく
日常においても「屍蝋化死体」に出くわすことは殆どない。確率的に「出来にくい」死体
だからである。
ただ、ここで解説しようと思ったのだが、その出来方からしてトリックに関わっていると
とんだネタばらしになってしまうのでひとまず解決編が描かれてから、屍蝋とはどういう
条件下で形成されるものか、というものを述べてみたい。
法医学を学ばれた方なら、あの不自然さにはとっくに気づかれていることと思うが……。
しかしそれがトリックに関係しているとは思いがたいのもまた、正直な感想である。


さて。謎解きが終了したということなので指摘をさせていただこう。
ズバリ結論から言うと、あの状況下では屍蝋死体は存在し得ない。トリックどころか話の
筋にも関係なかった(誰か、を判別するのは確かに役立ったが…)この「屍蝋死体」の意
味はどこにあるのか。読者をミスリードさせる為の単なる「お遊び」だったのだろうか。そ
れにしては中途半端に過ぎるような気もする。最近は下手な医者よりもミステリー読者の
方が詳しいぐらいだから、こんなはっきり遊びともミスとも分かりかねるようなものはズバリ
と指摘されてしまうだろう。

それでは、屍蝋死体はどのような場合に出来るのだろうか。死体の絶対条件というほどで
はないが、この話のような栄養不足の体では屍蝋にはならない。脂肪の多い肥満体でな
ければまず無理だろう。そして場所的に死後水没していたり、湿った土中、泥地への埋葬、
ビニール袋など密閉製の高いものに入れられていた場合などである。
つまり水分を非常に多く含む場所でなければならず、それは屍蝋が出来る仕組みに由来する。
ちょっと難しい話になってしまうが、体の脂肪分が死後加水分解され脂肪酸へ変化する。
これが細胞組織へ浸透していく間に還元(水素と結合する反応)され飽和脂肪酸に変化し、
この結果がいわゆる石鹸のような状態=屍蝋化というものである。
屍蝋化は1ヶ月くらいで始まり、3ヶ月かかって全身に及ぶ。そして半年後に完成する(完全
に完成するのは3年後という説もある)。
それからは永久に変化することはない。外見の特徴もすべて留めている。だからその死体
の身元を判別するのは容易だが、死亡時刻をはじき出すことは出来ない。せいぜい、死後
半年以上経過程度である。あとは身元が判明して、被害者の行動をたどり、死亡時刻を絞
り込んでいくしかないだろう。

以上、ちょっと意地の悪い見方をしてみた。




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