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7.青酸化合物の死斑

<名探偵コナン26巻「覆われた真実」より>

これはある意味重箱つつきになってしまうかも知れない。ただ、青酸化合物による死に
生涯で万が一出くわす事があった場合、あの描写には少し間違いがある為驚かないで
欲しい、という無理にとって付けたような理由で説明に踏み切る。

結論から先に言うと、青酸化合物で死亡した場合の死斑色は二通りある。ひとつは服部が
説明していたような「ピンク色(厳密には違うが……)」、もう一つは静脈の血のような黒い赤
褐色である。後者の場合は周知の通り劇的な死を迎える為、病死と間違われる事は殆ど
ないが、何故このような違いが生じるのか。

それは、経口による摂取の場合と吸引による摂取の場合とに分かれるからである。
建築材に使用されている薬品の関係で、それが燃えた時に生じる青酸ガスや、イネ科の
植物をサイロでサイレージする時に発生する青酸を吸引した場合、死斑は鮮やかな紅色と
なる。血色が良い死体ともいえる。
逆に飲み物に入れる等して飲み込んだ場合、死斑は暗赤褐色となる。つまりあの死体の
死斑は間違い……とはならない。例外として炭酸飲料で青酸化合物を摂取した時、胃に入った
青酸が炭酸のアルカリ性と反応、青酸ガスを生じてこれが肺に吸引される為死斑は鮮紅色でも
おかしくはない。
ただ…その前の服部の説明は「青酸による死亡時の死斑」についてであるので、この場合は
ちょっとおかしなことになってしまうのだが。

服部は死斑を見て「青酸カリによる死亡」と判定している。だがこの時点で飲み物がコーラで
あったことは分かっていない。つまり死斑から死亡原因を考察するならば、一酸化中毒による
死亡(死斑は桜紅色、彼の言葉からするとこちらの方がピッタリくる)も考えられる。状況的に
どうかという疑問は推理ものであるから除外。
何故青酸カリと断定したかという理由を「(略)血色が良くなり、そのため死斑は赤色になるから」
と言っている。が、それは青酸を吸引した場合であって飲んだ場合ではない。
だから飲み物が何か判っていない時点で死因を青酸カリと断定するのはおかしい。普通の飲み
物なら青酸服毒死は死斑は「暗赤褐色」になるからだ。(ただし口や食道、胃などの粘膜は青酸に
よって赤色のびらん状態となる)
飲み物がコーラと判明するのはずいぶん後の事である。
作者は多分死斑の違いを知っていて服部にしゃべらせたのだろうが、それだったら説明を始める
前に「鎌田さんが飲んだンは何や?」と聞いて回っている服部の絵を入れて欲しかった。それが
あれば「コーラを飲んだンやったらその中に毒が入っとった可能性も考えられる。それは多分青酸
カリや。死斑の色もそれやったら間違いないしな」といわれても納得できたんだが。

以上。ネタばらしになってしまった上、非常にいやらしいつつきだったことをお詫びする。

これだけでは申し訳ないのでまたも蛇足。
青酸にはアーモンド臭がつきもの、という定説がある。何せここ最近の推理もので大体が青酸
化合物による死亡と思われる場合、臭いをかいで「アーモンド臭がする、青酸だなこれは」とやって
いる。がしかし、すべての人がそう思うわけではない。
人によっては「臭わない」という人もいるし、「非常に臭う」という人もいる。臭いによって断定する
のも危険というだけの話。
それともう一つ。帝銀事件と並んで怪僧ラスプーチンが青酸を盛られても死ななかったという話は
有名だが、それを種明かししようと思ったら自分の小説のトリックをばらしてしまうことになるので、
卑怯な自分は解説をやめることにする。


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