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野次馬ニュース

週刊ダウト7月4日号(6月27日発売号)より

高遠遙一氏の1日特集

 大反響を呼んだ、5月17日号の明智警視の1日特集。好評にお応えして今回は高遠遙一氏の
独占密着取材の結果をお届けする。
 尚、登場する店の名前などはすべて仮名であり、もし万が一本当の場所がわかったとしても
大勢で押しかけたり写真を撮ったりするような行為は謹んで欲しい。




 某日朝5時。密着取材ということで、記者Hは予め教えてもらっていた高遠氏のマンションへ
向かう。
 実はこの日、6時に出かけるということだったので早めに向かったのだが…。

「急の用事が入ったので下記の場所へ来たまえ」

 何と記者H、いきなり置き去りにされた!半泣きになりながら急いで書いてあった場所に向かう
H。そこは有楽町にある24時間営業の喫茶店。あのう、天下の警視庁の目の前で何をしている
んでしょうか…。
「急にここの紅茶が飲みたくなってね。たまにはこんなアーリーモーニングティーもいいと思うの
ですが、君がいることを思い出しまして。一応メモを挟んでおきましたが見てもらえたようですね」
 流石、警視庁の明智警視を相手に渡り合うだけの犯罪者、急用の内容も半端じゃない。
 しょっぱなから不安を感じつつ、朝食に付き合う記者。
 イギリスで長く生活していた為、紅茶がないことには食事は考えられなくてね、と高遠氏は語った。
成る程食事を終えるまでに数杯紅茶を飲んでいる。しかし水代わり、というわけではないらしい。
きちんと、淹れられた紅茶の香り、味を堪能しつつの食事というところに、優雅なイギリス紳士の
気品が見え隠れする。

 朝食を終えると部屋へ。何をするのかと思いきや、マジック道具の手入れ。
「毎日の日課なんですか?」
 記者の問いに対し高遠氏はその手を休めることなく「Yes」と言った。
「大して時間のかかることではありませんし、使わないときにこそ手入れをきちんとしなくては。それ
に日本は湿気が多く、この季節は小道具にとってもあまりよくない時期です。マジシャンにとって命
であるものに、管理の目を行き届かせるのは当然ですよ」
 高遠氏の部屋には操り人形や仮面なども多くある。毎日の手入れのおかげで汚れ一つ無い。
 氏が手入れをしている間、それらを眺めてみた。
 事件でお目にかかったものもいくつかある。これらはどうやって集められるのだろうか。
「…イタリアのある職人と知り合いでしてね」
 記者の心を見透かしたかのように背後から声がした。
「マジック用にもらったもの、こちらから頼んだものが殆どですよ。最近は他のルートでも戴きます
けどね」
 そういえば、ダウト編集部にも「高遠様に捧げます!」という小包が届いたような…。
 何だか少し羨ましい。

 時は過ぎて9時。電話が鳴った。「失礼」と高遠氏が受話器を取る。仕事がらみの話だろうか、
氏の表情はいつになく真剣だ。こちらをチラリと見た後、会話が別の言語に代わった。多分イタリア語
だと思うが、記者には何を言っているのかまったくわからなかった。
「失敬、ちょっと大切な用件だったものでね」
 高遠氏はそう言って時計を見た。
「これから出かけます。…少々危険だと思うのですが、ついてくる勇気はありますか?」
 これは犯罪がらみに違いない!
 そう直感したH記者は大きくうなずいた。…念のため編集部に電話を入れたら、「生命保険の
受取人は編集長だから、安心して行って来い」とありがたい言葉をもらう。
 しかしH記者だって、長年高遠氏の事件を追いかけてきた意地がある。これで死んでも本望である。
そう決意して高遠氏の後を追う。

 新宿の某所にたどり着いた。この辺りは夕方頃に住人が目を覚ますため、10時なんてまだまだ
眠り始めたばかりだろう。時折自転車に乗った人が通り過ぎる以外人気は無い。
「君はここから先に来ないように。…出来れば、撮影もやめておいた方がいいでしょうね。流石に
人を助けられるほど余裕はありませんから」
 笑顔だが目が笑っていない。犯罪者、高遠遙一がそこに居た。
 彼はポケットからゴムマスクを取り出すとあっという間に別人に変装してしまった。その手際たるや、
中国で一時期有名になった変装の早業名人のようである(ご存じない方のために解説しておくと、
劇中で柱を通り過ぎるたびに別の登場人物になって出て来るという、1人芝居の名人がいたのだ)。
 1人ビルの角を曲がり、進む高遠氏。2人の男が立っている。黒いハットを深々と被り、黒服に身を
包んだ見るからに怪しそうな男達だ。素人でも犯罪にかかわっているらしいと分かる。
 古くからの付き合いなのか、二言三言会話を交わして彼らはある方向を見た。誰かと待ち合わせを
しているようだ。
 その時。
 風船を割るような音が数回して、高遠氏らが飛びのくようなしぐさをした。と、3人はバラバラの
方向に、あっという間に走り去ってしまった。
 わけがわからず取り残される記者、H。
 物陰から出ようとした時、何か鋭く叫ぶ声と共に男が5,6人走ってきた。どうも中国人らしい。
 どうも交渉決裂したようだ。
 やっと理解してその場を離れた。
 誰かが通報したのか、パトカーのサイレンが聞こえてきた。

 高遠氏の携帯番号は前もって聞いていたので急いで連絡をとる。彼は変装を解き、ゆうゆうと現場を
立ち去ったらしい。何という大胆さだろう。
 思いも寄らぬ事件に巻き込まれ、記者の方はまだ頭の中が混乱中である。しかし、取材をしない
わけにはいかないので、何とか気を落ち着けて続行することにした。
 再び落ち合ったのはある高校の前。
「…少し、探りたい人間がいましてね」
 校舎の方を見ながら氏はそう言った。
「ここからは遠慮願います。最近の事件のこともあり、部外者が見つかれば面倒だ。私は大丈夫ですが
君はそういうわけにもいかないでしょう」
 またも変装して彼は校舎に入っていった。セールスマン風だったため、それがあまりにも自然で、校庭で
体育の授業指導をしていた教師も一瞥しただけで止めようとはしない。
 高遠氏の変装術は一体誰から習ったのだろうか。とても独学で身に付けたとは思えない。彼のように、
生い立ちの真ん中部分が謎に包まれている犯罪者は滅多にいない。
 そんなことを考えているうちに高遠氏が戻ってきた。
「では行きましょうか」
 何があったのか、それとなく尋ねても氏は答えようとしなかった。ただ校舎を振り返った時に一言、
「大切な友人をこれ以上失いたくない。それだけです」と言った。

 昼食をとり帰宅すると、「申し訳ないのですが、これから少し仮眠をとります。ここ最近忙しかったもの
でね」と高遠氏は言った。
 数日仕事が立て込み寝ていないのだという。睡眠時間の少なさにも驚かされたが、これから仮眠をとった
後はまた翌日まで睡眠をとらないと聞いて二度驚いた。
「君が思うほど、私も暇人ではないのですよ」
 軽く肩をすくめて彼は寝室に消えた。
 睡眠を邪魔するつもりは無いので、ここで記者も時間を潰すことにした。時間は午後1時。とりあえず
編集部に連絡を入れ、撮った写真を現像にまわしてもらうことになった。
 これまでの経過をまとめ、高遠氏のマンション近くまで戻ってきた時に携帯が鳴った。氏からだ。
「出かけることになりました。君も付き合いますか」
 まだ3時。2時間の睡眠で持つのだろうか。氏の声はハッキリしていた。
 それまでの外出は徒歩だったのが、氏は車に乗っていた。残念ながら氏の希望で車種などは伏せる。
「助手席に人が乗るんでね。君は後ろへどうぞ」
 と言われ後ろへ乗り込む。ドアを閉めるや否や車は滑り出した。
 高遠氏は慎重派だと思っていたのだけど、運転の方はそういうイメージはない。かなりの腕だからこその
スピードなのだろうが、もしこれを真似したら自分は事故る。Hはそう思った。
 やがて車はある家の前に停車した。門の前に女の子が立っている。ん?どこかで見た様な…。
「やあ、S君(高遠氏の要望により名前は伏せる)。お待たせしましたか?」
「…別に」
 小学生らしいが、どことなく大人びた様子がある。S君と呼ばれたその女の子は助手席に乗り込むと
こちらを一瞥して、
「噂の記者さん?」
と氏に尋ねた。氏は黙ってうなずいた。
 で、結局どこへ行くかと思えば喫茶店。聞くところによるとここの、何とかというケーキが美味しいのだ
そうでSちゃんに付き合ってやってきたらしい。
 ということはデート?それにしては年齢が兄妹ほども離れている。
 そんな記者の疑問をよそに、2人は親しげに会話をしながらティータイムを満喫していた。
 ああ、独り者は肩身が狭い…………。

 その後2人(とおまけの記者)は車で遠出をしたり、散歩をしたりと世にいうデートコースを回り、夕方
Sちゃんの家へ戻ってきた。
 そして氏の家へ戻る途中、考え事をしていたのか、無言だった氏が口を開いた。
「彼女もいわば、運命共同体のようなものですよ」
 突然のことで意味が分からず、聞き返しても彼は微笑むだけでそれ以上何も言わなかった。
 一体我々の知らない所で何が起きているのだろうか。

 帰宅すると彼は、パソコンを立ち上げてメールを受信し始めた。
「身元がばれることは無いんですか?」
「架空の住所や氏名で契約することくらい簡単ですよ。それに、そういうことを専門にしている人間もいる
のでね」
 それから、と氏はネットに入り画面を見せてくれた。
「ここが私の出入りしているHPです。…自分の居場所が突き止められるかもしれない、というリスクを
犯してでも覗く価値のあるところですよ」
 彼は言った。
「…まあ、深夜暇をつぶしに行く程度ですけどね」
 そう言う彼の顔がどこかしら楽しげだったのは、決して暇つぶしだけが目的ではないからだろう、と
記者は思った。
 犯罪者でありながら、平然と日常を常人と同じように過ごしている高遠遙一氏。
 普通の指名手配犯とは一線を画したその姿に、未だ支持者が多いのもうなずける気がした。


 こうして、高遠遙一氏の密着取材は終わった。
 明智警視に比べて、毎日決まったスケジュールがない分、何度も取材していればもっと面白い
ものになったのかも知れない。
 でも相手は犯罪者。なかなかそういうわけにもいかない。
 今回の取材だって、やっとOKしてもらえたものなのだ。
 というわけで、楽しんでいただけたら幸いです。

 尚文中の狙撃事件ですが、先日メーリングリストでお伝えした中で「真相は謎に包まれている」という
ような表記がありました。これは、担当が違うために発生したものですので、あらかじめご了承下さい。


表紙撮影/篠山迷信

コメント:普通にマジシャンを撮影するのは、あまりにも芸が無い。マジック披露の瞬間が、もっとも端的に
     マジシャンの人となりを表すといえる。
     そのため氏にその意向を伝えたところ快く承知してくれた。
     このマジックは、彼の母親にあたる近宮玲子の作品、「生きたマリオネット」に改良を加えたもの
     である。
     マリオネットは糸を切り、自在に動き出すばかりでなく、彼の手のひらを離れ宙に浮いた。
     撮影のため近くに寄っても、そのトリックはまったく分からなかった。
     まったくもって脱帽である。

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※これら掲載の記事はすべて実際の事件・団体等に関係の無い架空の物です。


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