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  ローカルニュース

1月11日(日)  18時00分

娘のため…KID撮影していたドローン父親の手に戻る

 アメリカ人のマイクさん(仮名)は、大きな目的をもって日本にやってきた。
 それは、難病と闘う娘のためにKIDを撮影することだった。
 インターネットでKIDの予告状日時を確認したマイクさんは、日本在住の友人、佐藤さん(仮名)の
協力のもと、ドローンを使ってKIDを至近距離で撮影しようとしていた。
 このドローンは最近アメリカを中心に流行している小型無人航空機のことで、カメラを
搭載し、まるで空を飛んでいるかのような景色が撮影できる。しかし、盗撮問題や操縦ミスに
よる墜落などトラブルも少なくない。
 マイクさんはドローンを数か月前に購入、みっちり飛行訓練を行った。
 あとはKIDを至近距離で撮影できるかどうかだった。

 KIDが現れた現場にやってきてマイクさんは現実の厳しさを知る。
 周りはKID目当ての観衆で埋め尽くされ、空は警察のヘリコプターが飛び交い、犯行現場には
規制線が張られ、簡単に近づくことも出来ない。
 数百メートル離れた状態でドローンを操る必要があった。
 マイクさんは娘のため、少しでも近くにと、観衆の中にいた佐藤さんとスマホで連絡を取りつつ
ドローンを飛ばした。
 KIDがビルから出てきたところから撮影を開始した。
 しかしその直後、ヘリのライトでドローンを見失い、マイクさんはあわてて状況を確認しようと
したものの、ドローンはすでにどこかへ消え、KIDも飛び去ってしまっていた。
 マイクさんや佐藤さんは見物人に声をかけ、ドローンについて尋ねたが、目撃者を見つけることは
出来なかった。

 マイクさんは失意のままホテルに戻った。
 その数時間後、佐藤さんから連絡が入った。
「Facebookやtwitterで呼びかけてみないか」
 マイクさんはダメもとで、Facebookに記事を作成、twitterにドローンの写真も掲載し、「もし
拾った人がいたら、ドローンは差し上げます。でもカメラ映像は送って欲しい。KIDが少し映っている。
アメリカで待っている娘のためにそれが欲しいんだ。匿名で構わないから連絡してきて」と呼びかけた。
 このツイートは深夜であったにも関わらず瞬く間に1万リツイートされたという。

 翌日マイクさんは朝食の席でウェイターに声をかけられた。
「昨日、twitterで呼びかけられていましたね。見ましたよ」
「そうか、見てくれてありがとう」
「ところで、贈り物があります」
 不思議そうな顔をするマイクさんの前に差し出されたのは、見失ったドローンだった。
 撮影用カメラもついていた。
「どこでこれを?」
「失礼、昨夜私の近くを飛んでいたものですからてっきり警察のものかと勘違いしまして。
事情はお聞きしました。ぜひお嬢さんに届けてあげて下さい」
 状況がのみこめないマイクさんの前でウェイターはウィンクして指を鳴らしたという。
 すると、煙幕とともに現れたのはKIDだった。
 騒然となるホテルのレストラン。
 KIDは「それでは確かにお返しいたしましたよ」と伝え、一礼すると窓辺へ優雅に歩いて行き、
そこから窓の外へ消えていった。
 この後マイクさんから電話を受けたという佐藤さんは語る。
「びっくりしました。マイクがものすごくあわてた様子でまくし立ててきて、僕は『落ち着いてマイク、
ドローンが戻ってきたのか』と聞いたんです。
 そうしたら、『こんな最高なサプライズはないよ!』ととても喜んでいました」

 マイクさんはその夜の便でアメリカに帰国、さっそく娘に見せたという。
 そこには、KIDの隠れ家と思しき場所で「やあお嬢さん、初めまして。月下の奇術師ことKIDです」と、
おどけた様子で語りかけてくるKIDが映っていた。
 娘さんは大喜びで、病気克服のためのリハビリにトライすることを決心した、とマイクさんは
Facebookで報告した。
 マイクさんは「これは娘のためにKIDが撮影してくれたものだからネットにアップするつもりはない」と
書き添えた上で、「あの時私のために、皆さんがリツイートして広めてくれたこと、それをKIDが知り、
わざわざ特別な映像を撮影してくれたこと、一生忘れない。娘が病気を克服して元気になったら
また必ず日本に行き、KIDに感謝を伝えたい」と締めくくっている。
 この記事はアメリカのみならず日本、イギリスなど各国で紹介され、マイクさんのもとには
沢山のコメントといいね!が寄せられている。

 警視庁の中森警部は「ノーコメントだ」とのこと。
 ただの泥棒で終わらぬKIDに、またファンが増えたようだ。


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