多分花鳥風月金田一、コナン的読み物ページ小説置き場→魔人学園小説3




――どいつもこいつも、重い荷物がテメェ一人で背負えるかってンだ。ちったぁ俺にも手伝わせろ!
「オラァそこの男ども! 俺達にばかり働かせんな!」
 雪乃の罵声が飛んできた。
「というわけだから、先方を頼むよ」
 如月が後ろにいる小蒔の隣へ戻って行く。
「応ッ!」
「承知」
 構えた二人にもはや敵はない。
「……蓬莱寺君」
「何だよ?」
「僕も、君の事を『京一君』と呼んで構わないかな」
「何だよ突然」
 立て続けに鬼を数匹、気合と共に斬りはらって京一はニヤリと笑った。
「俺ァ仲間にはいつだって名前で呼んでもらいてぇよ」
 ザパーン!
 格好よく右手親指をビシッと立てて見せ、ニッと笑ったりなんかしてキメていたはずの彼を
頭上から水しぶきが襲った。一瞬、修行時代よく打たれていた滝がフラッシュバックして
しまったぐらいの衝撃である。
「ああ悪い。いきなり気味の悪いことを言うもんだから手元が滑ったよ、蓬莱寺(、、、)君」
 いけしゃあしゃあと骨董屋が言う。その顔には思い切り、バーカバーカという文字が書いて
あるように見える。
「このヤロー!」
「あ、危ない!」
 さらに追い打ちとばかりに、醍醐に投げ飛ばされた鬼が数匹降って来た。ぐえ、とヒキガエルも
思わず逃げ出しそうな声を上げる。
 今日は天中殺か何かだろうか……。そういえば朝出掛けにお袋がTVの星占いで災難が
どうのと言っていたような気もする。いや、今そんなことはどうでもいい。
「だ、醍醐ォ……」
「いやお前がいきなり如月の方にズカズカと歩きだすから……すまん」
「……プッ、あっはっは!」
 闘いのさなかだというのに緊張感のない面々に、ついに壬生が笑い出した。鬼の下から
ヨロヨロとはいずり出した京一に手を貸してやっても、まだ笑いの止まる様子がない。
「君達って本当に面白いな」
「こいつがバカなだけだろうが」
 雪乃は一緒にされて面白くない。
「笑ってるヒマはないよっ!」
 小蒔の声に京一がいけね、と舌を出す。
「何だか減る様子がないな」
「僕と桜井君とで二十体くらいは片付けたはずだが」
「こりゃぁ本体がいるぜ」
 京一は如月を振り返って、
「如月、忍びの眼とかで、気配の違いそうな奴分かんねーか?」
「やってみよう。その間、雑魚を頼むよ」
 スウと如月の双眸が閉じられる。
「雛乃、傷は大丈夫か」
 雪乃と小蒔が雛乃を気遣う。出血は収まったが氣を放出しているせいで、体力がどんどん
奪われていく。
「大丈夫です。あとしばらくはもちます」
 醍醐が任せろというふうにうなずいてみせた。その言葉どおり、雛乃に近づこうとする鬼を容赦
なく地面にたたきつける。
「京一君、壬生君、時折胸の辺りが光を放つ奴がいるのがわかるか?」
「ああ」
 雑魚どもの群れ、ドラム缶が数個転がった奥の方にいる鬼。それを如月がまっすぐ指さす。
「おそらくあれだ。先程からまったく動かないし、気配が一段と濃い。一気にけりをつけよう」
「おっしゃあ! お前らフォロー頼むぜ!」
 京一が木刀を握る手に力を込めた。壬生と目で合図を交わす。そして一瞬の後、二人は
一秒もタイミングをずらすことなく鬼の群れに向かって走りだした。
 群れまで、
 3m。
 2m。
 1m――ゼロ!
 鬼達が挑戦者の体をつかもうと、剛毛に覆われた手をのばした!
「九龍烈火ァ!」
「飛水影縫ッ!」
「落雷閃ッ!」
 後方から小蒔、如月、雪乃が他の鬼を足止めする。鬼の壁を軽々と飛び越えて壬生が目指す
ターゲットの背後に着地した。
「龍神翔ッ!」
 振り向く間も与えず壬生の蹴りが、にぶい音と共に鬼を宙へ跳ね上げる。
「ウガァァッ!」
 空中で体勢を立て直そうとする鬼の背後に、京一が飛んでいた。
「ひとつ忠告しといてやらァ。人の恋路を邪魔する奴ァ――」
 京一の木刀から旋が巻き起こり、うなる風に押されて鬼が吹っ飛んだ。
 待ち構えていた雪乃が薙刀を手に"舞う"。
「俺達にやられて、小蒔、骨董屋行ったぜ!」
 小蒔の弓から炎が、如月の小刀から水がほとばしる。それらはお互いに絡み合い、螺旋状の
渦となり、うなりを上げて鬼のバラバラになった体を包み込んだ。
「ギィヤァァァー!!」
 熱気が辺りを包み、残っていた鬼も消滅していく。
「死んじまえってね」
 小蒔が笑顔で如月と手をぱあんと打ち合わせる。雛乃と醍醐も走りよって来た。
「ご無事ですか」
「ああ」
 これしきのことはなんでもない、というふうに如月はうなずいてみせた。滅多に見せない、商売気
抜きの笑顔付きである。
「雛乃こそ、大丈夫?」
「平気です。如月様よりいただいた薬が効きました」
「それはよかった」
「京一君」
 制服のほこりを払っていた京一に、壬生が思い切ったように声をかけてきた。
「ん?」
「さっきの君のセリフ――」
「なんだなんだ、決まってたか?」
「鬼が恋路の邪魔をしたというのはお門違いだよ」
 ずる、と京一が体勢を崩す。冗談かと思って表情をうかがうが、壬生は本気でそう言っているようだ。
「何だよ壬生、いーじゃねーかよ。男がこまけーこと気にすんな」
「京一が大ざっぱ過ぎるんだ」
 小蒔と醍醐が同時に言う。雛乃がクスクスと笑った。
「ちぇ。さーてと、邪魔もなくなったことだし、見物に戻るとすっかな」
 京一の言葉に、一同はやっと本来の目的を思い出した。きょとんと、壬生が首をかしげた。


「……そーだよなー、あいつらの性格からして、買い物終わって一時間もウロウロしてるわけねーん
だよなー」
 日もだいぶん傾いて、街中にはそろそろ秋を感じさせる風が吹いている。
 空しく元・尾行者達は雑踏の中に立ち尽くしていた……。


 翌日の放課後。
「皆、頼まれていた物、買ってきたわ」
 嬉しそうに美里が袋を差し出す。受け取る京一達の心中はなかなか複雑だった。
「おっありがとよ……その、買い物終わってまっすぐ帰った……んだよな?」
「ええ、そうだけど?」
「な、何かさ、面白いこととかなかったの?」
「小蒔ったら……特に何も無かったけど」
 美里が首をかしげる。
「そういえば」
 今まで無言だった龍麻が口を開いた。京一達が「何ナニ?」と顔を輝かせる。
「醍醐の電話はタイミングが良かった。ちょうど薬局の前だったんだ」
「なーんだ、そんなこと」
 知ってるよと京一が言いかけて、あわてた二人に口をふさがれた。
「どうかしたのか?」
「いやっ、そうか、それは良かった」
 醍醐のセリフがなんとなくわざとらしい。
「あっ、いけない」
 美里が口に手を当てた。
「小蒔と京一君に醍醐君、アン子ちゃんが放課後に掲示板のところに来てって言ってたわ」
「えっ、何の用だろ?」
「さあ……来れば分かるって、それだけしか聞いてないわ」
「じゃ、ま、行ってみるとすっか」
 計画が失敗に終わったらしいことなどコロリと忘れて、京一は足取りも軽く興味津々で教室を出て
行く。アン子の呼び出しがロクなもんじゃない、というのはどんな目に遭っても学習しないらしい。
――とすぐに戻ってきた。
「ワリーワリー、こっちも忘れてた。龍麻、如月からの預かりモン。この前如月が渡してくれって」
 白い封筒を龍麻に渡すと、ポンッと肩を叩いて出て行く。
「ちょっと待ちなよ京一ッ」
 置き去りにされた小蒔と醍醐がそのあとを追いかけて行った。


「なんじゃこりゃーっっ!」
 廊下に京一の絶叫が響き渡った。周辺の教室から、生徒達が顔をのぞかせる。
「やられたッ、アン子の奴ー!」
 校内掲示板に張り出された、映画のポスターよりも大きそうな真神新聞号外には、京一達の
怪しげな後ろ姿をバッチリ収めた写真が――物陰から様子をうかがっているところだった――、
三段ブチ抜きで掲載されていた。しかもご丁寧に、スポーツ新聞の見出し並の大きな字で『不審
人物にご注意!』などというタイトルまでつけられている。
「フン、あたしをのけ者にしたバツよ! あんた達の仲間になったっていう如月君に会ってみた
かったのにッ!」
 振り向けばアン子が腰に手を当ててふんぞりかえっていた。何だか被害者と加害者の立場が
逆転しているような気がするのは、京一達の被害妄想だろうか。
「オメーなぁっこれはねーだろこれはッ!」
「不審者とはどういうことだ!」
「あのねっ別にのけ者にしたわけじゃなくて、あの二人のことを記事にされたくなかっただけ!」
 アン子はベーッと舌を出してみせると、
「いいもん、これから号外バラまいてやるっ!」
 言うが早いか走りだした。わきに抱えた新聞の束を本当にあちこちへ放り投げながら、である。
「号外ー! 真神学園に不審者現る!」
「あっちょっと待てこのヤロー!」
 三人がその後を追う。
 真神学園の校舎に、いつにも増してにぎやかな声がこだました。
 ふいに物悲しくなるような秋の風は、ここにはまだ少し早かったらしい。木枯らしがちょっぴり
ため息をついた。


「葵、ちょっといいか?」
 三人が教室を出て行った後、生徒会室へ向かおうとした美里に龍麻が声をかけた。
「何? 龍麻君」
 龍麻は先ほど京一が渡した封筒を差し出すと、ちょっとはにかんだように笑って、
「これ、良かったらもらってくれないか。もうすぐ誕生日だろう? ……気に入るか分からないけど、
如月の店で買ったお守りなんだ」
「えっ……」
 思いがけない出来事に、美里は目を丸くした。
 目の前に差し出されている、何の飾りも無い白い封筒に入っただけの品物。包装を断った
のだろう。そのシンプルな選択が逆に龍麻らしい。
 驚きと嬉しさで混乱しているせいか二の句が告げないでいると、それをどう受け取ったのか、
龍麻が付け加えた。
「店で見て、これがいいと思ったんだけど、在庫が無くて取り寄せてもらってたんだ。葵に
ピッタリだと思ったから」
 それだけ言うと龍麻はカバンを手に、「じゃ、俺帰るから」と美里の返事も聞かずに出て
行ってしまった。長い前髪から見えかくれする顔が、赤くなっていたように見えたのは夕日の
いたずらだろうか。
「龍麻君……」
 引き留めることも忘れてたった今受け取った封筒を手にしたまま、美里は頬を赤く染め立ち
尽くしていた。
 しばらくしてようやく我に返り、封筒を開けてみる。
「かわいい……」
 神社で売っているような、赤いお守り袋の表に小さな天使が刺しゅうされている。相手は口の
堅い如月とはいえ、どんな顔で龍麻はこれを買ったのだろう。
 もう一度微笑んで美里は、丁寧にそれを封筒に戻し、胸ポケットへしまい込んで生徒会室に
向かった。
 到着するまでに、このドキドキが収まってくれることを願って。
 明日ちゃんとお礼と、……それから、自分の気持ちが言えることを願って。


 そして。ドタバタと忙しい京一達に運命の女神は微笑んでくれるどころか、当分アカンベーをして
いるに違いなかった。
                                                        終 


<しょうもない作者のしょうもないコメント>
申し開きのしようもありません。読んでくださった皆さんには深く御礼申し上げます。そしてさっさと忘れましょう。
一年以上前にふと思いついて書いたのですが、文章の技術がまったく向上していないことに眩暈すら覚えた次第です。
こんな古い物を「発表の場がないのももったいない」と晒してくれた相方にも、仕方がないので礼を述べつつ老兵はただ去ります。
人の作品は偉そうに批評するくせにこれか、と行方を探さないで下さい。
                                                                        中村某


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