多分花鳥風月金田一、コナン的読み物ページ小説置き場→高遠遙一の回顧録(「高遠遙一の回顧録」より)1-1




――また、貴方ですか。毎日激務でしょうに、よく続きますね。何度足を運んで
いただいても、私は面倒な事は嫌いなのです。
 これは? ……近宮玲子の? そうですか。よく調べましたね。彼女の公演記録は
魔術団の人間でも記録していた者がいなかったのに。
 生田。生田四郎。
 ああ、彼がいましたね、錯覚の研究が高じて魔術トリック研究の第一人者に
なった人が。
 彼が近宮マジック団の記録をつけていて下さったんですね。拝見しましょう。
 ……成る程、この記録は私の記憶と照らし合せても一文字の間違いもありません。
完璧と言える仕事です。
 いいでしょう。今日はちょうど一つ私のシナリオ劇が終わったところでしてね。
非の付け所なく完璧に終了したので満足しています。話をして差し上げましょう。
――ただし、約束して下さい。私は貴方の努力を認め、話をしますが、御存知の
通り私は追われる身。無論貴方ごときの記事で立場が危うくなるはずもありませんが、
この生活も少し気に入り始めているのでね、しばらく動きたくないのです。
――ええ、そういうことです。小説という形であれば、実際の事件に似ていると噂に
なりはしても、本気で受け止める人間はいないでしょう。
 警察ですか?
 いや、失礼。あんな古臭い伝統を意固地に守り抜こうとしている組織を信用する
人間がまだいたのかと思うと、笑いが押さえられなくてね。それに、私がその事件を
起こしたとどう証明するんです?  言っておきますが、証拠など探しても無駄ですよ。
 何を、怖がっているんです?  無理に笑おうとしても足が震えていますよ。話をして
欲しいと毎日押しかけてきたのは貴方でしょう? このナイフですか?  奇術用ですよ。
 私は確かに犯罪者ですが、意味のない殺戮はしません。そこに芸術性は欠片もない
ですからね。
 さあ、何をお話しましょうか。未解決事件の中で、これはと思うものがあったら遠慮なく
どうぞ。
 誘拐の?  ああ、あんな下らない事件ですか。ええ、確かに私は関わっていましたよ。
そういう点では貴方の着眼点は素晴らしいでしょう。ただ、ちょっと思うところが有りましてね。
……別に構いませんよ。あなたの気が済むのであれば。ついでに、私が何故警察を手助け
したのかも教えてあげましょう。
 誰もまだ気づいていないトリックショーのこともね。


                    TOP            NEXT


多分花鳥風月金田一、コナン的読み物ページ小説置き場→高遠遙一の回顧録(「高遠遙一の回顧録」より)1-1