多分花鳥風月金田一、コナン的読み物ページ小説置き場→金田一vsコナン「透明な殺意」→エピローグ


エピローグ

「結局、本物の美恵さんと誠さんはどこ行ったんだろうなぁ」
 ぼそりとつぶやくと、三人がものすごい勢いで振り返った。
「金田一……アホやアホや思てたけど……」
「正真正銘、アホだな」
「良かったですね、金田一君。お墨付きですよ」
 明智を思いきり睨み付けておいて、
「んなこと言っても、お前らだって分かるのかよ」
と服部とコナンに食って掛かる。
「キッドと高遠がゆうてたやん」
「カリフォルニア旅行を繰り上げて帰ってきた、って」
「え? じゃあ……」
「彼らはまだ、異国の地を踏んでいるでしょう。こんな大騒動も知らずに、ね」
 夕日が彼らを優しく包んでいる。あれほど興味深げにやってきていた野次馬達も、一人減り
二人減りして、いなくなってしまった。
 高遠によって余計な仕事を増やされた警官達はそれでも、不平一つこぼさず一生懸命働いている。
 もっとも、明智が目の前にいては言いたくとも言えなかっただろうが。
「最初の謎が最後に残ってしまいましたね……」
 そう言った明智の手に、彼らをこの地へ導いたメッセージが握られていた。
「せっかくの忠告にもかかわらず、その期待に応えられなかったのが心残りだな」
「鍾馗、か……。俺らには、疫神は中々見えへんかったなぁ……」
「すぐ背中にいたのにな」
 手紙が、政良達に見せられるべく運命付けられたものならば、自分達に見せられるべく怪盗の
名を騙り、出されたカードは。
 高遠が不敵に寄越した暗号は、彼もまた闇から抜け出そうとあがく疫神を助けたかったからなのか。
 何もかも偽りと笑う心の奥底で。
「いつかは救われるんやろか」
 服部がつぶやいた。
「政子さんや政美さんの為を思ってしたことです。高遠の言葉を借りるのは癪な気もしますが、
彼らがそれほどまでに家族を大切に思えるのなら、父親である政和さんによって必ず救われる
はずでしょう」
「そうだな」
 コナンが優しく笑った。
 子供のことを放ったらかしで、でも、自分が殺されかけ、子供の姿になったことを知ったとたん、
芝居を打ってまでその危険性を知らせようとしてくれた親。それもまた、情愛の一つ。
「おっちゃん、ええ人やったしな」
「もちろん」
 服部が隣のコナンを見下ろし、視線を戻してその隣の一を見た。
「お前か?」
「は?」
「この度はお世話になりました」
 にこりと微笑んで女は深く頭を下げた。
「皆さんのおかげで、政良達もきっと、立ち直れるでしょう」
 ギョッとしたように明智が目をみはったが、それも一瞬のことで、
「何もお力になれませんで」
と言った。
「いいえ。あの子達は絶対に計画を諦めなかったでしょう。これで、良かったのです」
「良かった、とは?」
 コナンが尋ねた。
「もし皆様がいないところで計画を実行していれば、あの子達が贖罪をする機会は、永遠に与え
られなかったでしょうから」
「ちょ、ちょい待ちぃ」
 そう言った服部の顔色は真っ青だ。「さっきから聞いとると、あんた、まるで政良さんらの……」
 そこから先を言う勇気は流石の服部にもなかった。
「もしかして、政子さん」
 代わりに一が言ってしまった。彼の場合、無謀と言う名の勇気だろうが。
「ええ」
 恥ずかしそうにはにかんで彼女は頭を傾けた。
「御足労、ありがとうございました」
 もう一度下げた頭を再び上げることなく、彼らの見守る前でその姿が風と消えた。
「おや」
 明智が右手を見てつぶやいた。「手紙も消えてしまいました」
「金田一、見たか」
「見ちまったよ……」
 しごく情けない声を出して二人は顔を見合わせ、――あたりに響き渡る叫び声を上げて、脱兎の
ごとく坂を駆け降りていった。
「あらゆる仮定を消去して出た答えなのですが」
「それがどんなに馬鹿げたものでも、真実は真実なんだよな」
 残された二人は肩をすくめて――笑った。


 あら嬉し。今まで荒れたる疫神を退治せり。この芽の輪を門口に掛け、
我を念ずる輩は万づの疫のがれ得させん。



                                                       <了>

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