多分花鳥風月金田一、コナン的読み物ページ明智健悟の部屋→6


  

6.プロファイリング

プロファイリングと一口に言っても、情報源となる専門分野は多岐に渡り、ここで説明
するには非常に難解なものとなります。
ですから、なるべく簡単な表現に務め、私達がどのような視点から分析を行っているかを
分かり易く説明しますね





<プロファイリングとは?>

簡単に説明すれば、情報から犯人像を組み立てる「推理」のようなものですね。これを捜査に
取り入れるメリットは、「捜査時間の短縮/早期解決」です。あらかじめ犯人像が判明してい
れば、目撃証言や現場に残された手がかり、被害者の人間関係などと組み合わせて容疑者を
絞り込むことが可能です。犯罪の種類によっても犯人像の絞り込みが出来ますから、早期解
決が特に必要な事件などには有効です。
しかしデメリットもあります。初期の段階で犯人像の分析を誤れば、捜査の方向性そのものが
狂い、捜査に混乱をきたすことは必死です。誤認逮捕で罪の無い人を調べている間に真犯人の
逃亡を許すこととなります。「逮捕は、人権を侵略する行為であり実行には慎重な配慮を要する」
ということを定めている日本警察では、積極的に取り入れられない理由も理解できましたか?
(追記:米国では、犯罪件数と警察官の比率から『合理的』解決の為にプロファイリングを取り入
れています。誤認逮捕を容認しているわけではありません)



<日本警察とプロファイリング>

日本では積極的に取り入れられない、ということを言いましたが敬遠されているわけでは
ありません。むしろプロファイリングによって解決した事件もありますし、広い意味ではベテラン
刑事の「カン」による調査もプロファイリングであると言っていいでしょう。
日本では、「捜査の補助的な情報源」としてプロファイリングが使われていると言った方がいい
ですね。
もっと研究が進んで分析率が上がれば、捜査効率化の為にも注目されることでしょう。



<プロファイリングは万能ではありません>

データさえあればたちまち犯人像が浮かぶ。そんなマジックのような幻想を抱いている方も
おられるかもしれませんね。
残念ながら、プロファイリングにも限界があります。
1.情報が少なすぎる時
2.ミスリードが目的の証拠であった時
3.分析官の経験不足
主にこの3つです。まず情報が少ない時ですが、例えば「女性が殺されていました。犯人を
プロファイリングで当てて下さい」というものだけでは、どんなに優秀なプロファイラー(心理分
析官)でもお手上げです。最低でも犯行現場・被害者・検視報告書・初動捜査などの情報が
必要になります。
次に、ミスリード。これは滅多にある事ではありませんが、プロファイリングを学んだことのある
人間などが誤った犯人像の分析を目的として自分と関係の無い証拠をわざと残していくことです。
日本の犯罪史上に残る有名な「三億円事件」の物的証拠も、ある意味当てはまるかもしれません。
何しろ残されていた証拠すべてが、まったく犯人に繋がらない物だったのですから。
最後に、経験不足ですが…これは誰でも経験することです。アメリカでは普通、経験の少ない
分析官が一人で調査を引き受けることはありません。熟年のプロファイラーと共に分析をします。
しかし、プロファイリングには特異な例もありますから、そういった事例を経験していない分析
官であった場合、特殊な犯罪の犯人像を見誤ってしまうこともあります。その為、プロファイラーは
常に情報収拾に努めています。それが、的中率を上げる確実な方法です。



<プロファイリングの過程>

では実際にプロファイリングの過程を説明します。とは言っても非常にシンプルです。
1.データ収集・インプット(犯行現場・被害者の情報・捜査情報・司法解剖結果など)
2.判断(どういった犯罪か・連続か単独か・被害者の分析など)
3.犯行分析(偽装はないか・無秩序か秩序型かなど)
4.犯人像の作成・手配
流れとしてはこうなります。ただし容疑者としてリストアップされた人間の情報は一切入れ
ません。先入観による間違いを防ぐ為です。あくまでも分析結果から犯人像を組み立て、
その段階で容疑者がリストアップされていたならば、当てはまる人間が居るか探していくのです。



<不確かな犯人像>

プロファイリングやプロファイラーをテーマとしたドラマは日米幾つも作られていますから、
こういったことに興味のある方は「秩序型」「無秩序型」という言葉を耳にされているでしょうね。
秩序型とは、計画的、知能の高い犯人、証拠の隠滅などが見られる犯罪であり、無秩
序型はその反対です。
しかし最近は中間型と言われるどちらにも当てはまるタイプの犯罪も発生するようになり、
事件が多様化・複雑化しています。
また、日本ではマスコミによる興味本位の犯人像が報道されたこともあり、証言者や目撃者へ
先入観を植え付けてしまう可能性のあることが憂慮されています。
人間の記憶は非常に曖昧です。警察庁や専門家の発表によると、権威ある人間が自信を
持って正反対のことを発言した場合、それに併せて記憶の方を修正してしまうことが分かって
います。
警察が発表する情報はある程度制限されています。それから犯人像を分析するのは非常に
困難です。マスコミに依頼されて犯人像を語る専門家も大変でしょう。しかしそれが「確実な
犯人像」として発表され、目撃者などが自分の記憶と違っていた場合、「マスコミと違うことは
言いにくい」という考えから証言を翻してしまうこともあるのです。
我々警察としては、報道も大切ですがあまり先入観や決め付けによる内容では困るなと思って
います。



<簡単なプロファイリング>

それでは、実際にプロファイリングをやってみましょう。
<問題>
ある家の壁に落書きがされていました。その壁の高さは3m。落書きされていた場所は高さ
165cmの所で、誹謗する言葉をマジックで書いたものです。季節は12月。家人である受験
生(18才)がコンビニへ出かけて戻ってきた時(午前3時頃)には無かったといいます。その家は
塀を挟んで片方が住宅、もう片方が竹林という環境ですが、どちらかというと深夜でも比較的
車の通りがあり、にぎやかな位置にあります。が、家の前で何か停車したような不審な音は
聞いていません。
落書き被害は初めてのことです。発見したのは、午前6時に散歩しようと外に出た家人です。
道路に面した壁の中心から左側に落書きがあり、ドアは右側についています。門はありません。
近くで道路工事の交通整理をしていたアルバイター2人は、不審者は見ていないと言っています。
さあ、貴方が犯人像を分析してみて下さい。



<解答>  注意:これは決め付けではなくあくまでもこの場合の一犯人像です。
まず、受験生を疑った人はいませんか?そうだと言う人は先入観に頼り過ぎています。プロファイ
リングは情報収集から始めるのが鉄則です。

では分析を始めてみます。
まず落書きの位置に注目します。高さが165cmということですから、犯人の身長は180cm〜
175cm程度であると推測できます。これは、壁など自分に対して平行な位置にある物に何かを
書く時、殆どの人が目線の位置に書くというデータに基づくものです。これから、犯人は男性で
あると分かります。もっとも、日本では「厚底ブーツ」などもありますから女性の可能性も考えられ
ますが、後でそれは否定できます。

次に、マジックで書いたものという点から落書きをする意志を持っていることが分かります。思い
付きではなく用意をしていますから、計画性のある行為です。また、寒い時期の深夜行為に及んで
いる点から社会人や家族と同居している人間は除外され、一人暮らしの大学生もしくは20代の
アルバイトに就いている人間と絞り込めます。(これ以上の分析理由は長くなりますので割愛します)
ちなみに知能は水準以上で、慎重な性格でしょう。事前に下見をしている可能性大です。入念に
調べれば昼間の目撃証言が出てくるはずです。体格は長身で細身、周囲の人間の評価はいい方
で、友人も多いタイプです。

次に場所です。深夜でもにぎやかであるということは、犯行に素早い動作が必要とされます。厚底
ブーツでそのような動きが可能でしょうか?犯行後すぐに立ち去らなくてはならないのです。これ
から犯人は男性ということになります。
また、音の問題から移動に車を使ったとは考えられません。徒歩もしくは自転車でしょう。
そして犯行時間は午前3時から6時の間と考えられますが、道路に面した住宅に落書きを出来る
人物はかなり限られます。その為だけにそこを通過したとすれば、交通整理をしていたアルバイ
ターに「不審な通過者」として記憶されてしまうでしょう。
通過しても不審でない人物は?

そう、この分析結果から警察が容疑者としてあげていいのは「新聞配達人」ということになります。
アルバイターの証言から、「普段そこを通っている者」は除外されているはずです。新聞配達人で
あれば、家に近寄った所で見咎められません。
ただし、このプロファイリングは少ない情報を元に分析したものですので、実際の事件では適用
されません。あくまでも、ここでの例として考えて下さいね。

如何でしたか。何でもないような手がかりでも、これだけ沢山の情報を含んでいます。
刑事が捜査を開始する時頼りにする「カン」は、経験からこうした分析を無意識に行っている
ことが多いものです。
もちろん私の場合は純粋な分析と推理であることを付け加えておきますけどね。




さあ、戻りましょう。


多分花鳥風月金田一、コナン的読み物ページ明智健悟の部屋→6