多分花鳥風月金田一、コナン的読み物ページ高遠遙一の部屋→1.催眠術



    母、近宮玲子は希代のマジシャンとしてすでに伝説の人間となっている。
私はどうだろうか。
    勝負をしないうちに彼女は去ってしまった。永遠に…。それも薄汚い、芸術を
理解しない愚か者の手によって。
    …そう、犯罪芸術家として名を残せばいい。忘れられたくとも忘れられない、
うなされて飛び起きる悪夢のように…。
    私は生に執着はしない。

  

    時折、予感めいたものが頭をよぎる。もし母が存命していたとしても、きっと私は
自らの手を血に染め哀れな犠牲者を探してさまよっていただろうことを。
    宿命。 
    そう名付けても良いものならば。
    私は後悔などしない。いつ闇に飲み込まれようとも…。
    我が名は地獄の傀儡師、死を運ぶ狩人。

  

血のように紅いバラを… 

    日常に住む人間にとって、非日常への一線を越えることはいともたやすい。
日常と非日常のボーダーラインは極めて細いのだから。
     しかし。
    非日常に一歩足を踏み入れた時から、日常は果てしなく遠ざかっていく。砂漠を
さまよう旅人の前に現れ、行けども追いつけぬ幻のように…。
   そして、迷い人は犯罪者の烙印を押される。

 

催眠術

   この頃は様々な分野に於いて「催眠術」が取りざたされているようですね。私はマジックの補助として使うに過ぎませんが、どのような使い方が可能なのかを教えてあげましょう。ああもちろん、腕に自信のない方が使うのはやめておいた方が良いですよ。無事に日常へ戻りたいならね…クックックッ。

   まず一番多い疑問が、「催眠術で殺人は可能なのか」ということです。皆さんそれほど誰か思い当たる方でも?素晴らしい素材ならば私自らが手を貸してあげましょう。ククッ、…いや失礼。
   その疑問に対して殆どの専門家が「不可能である」と答えます。人間には本能というものがあり、その本能が「禁忌行為」として自らの死及び同種族の殺戮などを強く禁止しているからです。
   ですから例え「ビルから飛び降りて死ね」と言っても、その命令は脳で取り消されます。これが禁忌行為の禁止です。

   ですが。私は同じ質問をされれば「可能である」と答えますよ。絶対、とはいいませんが。

   それは如何に強く相手に作用させることが出来るか、ということと密接なつながりがあります。そして恐らく、世界中で技術的に可能なのは私の他に誰もいないということを申し上げておきましょう。ですから、「もし誰かに催眠術をかけられたら」などと無駄な思考は無用です。…クッ、世の中にはもっと手間をかけずに死に至らしめる方法がいくらでもあります。
   高等な催眠技術を持つ人間ほど技術の誇示を避けますよ。身近で疑わしい死があった場合、要らぬ嫌疑をかけられるのは嫌ですからね。催眠術で人が殺せると誰も公言していなくとも、少し違う能力を持つ者は奇異の目で見られがちです。

   さて、その方法というものは、状況を錯覚させることです。先日も同じ事を尋ねられたので申し上げておきましょう。
   とある話で薬を使ってですが、状況を「ここは暑い南国である」と錯覚させ「一歩踏み出した先に楽園がある」と命令を行い、ビルから転落死させたものがあります。これが、状況の錯覚です。

  そう。もし一国の元首にこれを行ったとしたら。核ミサイルのボタンを押させることも可能です。もっとも私はそんな一瞬で終わってしまうような芸術性のかけらもない行為はごめんですが。

   夢遊病、というものを当然御存知ですね。あれも一種の催眠状態であり、状況の錯覚です。脳は眠りに就き体が目覚めているために、「夢」を脳からの命令と勘違いして実行してしまう。
   いつでしたか、夜中に道路を徘徊していた夢遊病者を避けようとして交通事故が発生しましたが、本人は心神喪失状態ですから何の罪も有りません。
   ただこれは病気ですから、万が一あなたがナイフを手に目覚め、そばに死体が転がっていたとしたら法廷でそう主張することをお勧めしますよ。ただし世間から隔離されて一生出てこられないかもしれませんが…クスクス。
  付け加えておけば、夢遊病と反対の症状が「金縛り」です。脳は目覚めているのに、体が眠っている。思春期は成長の為に体が休息を求めますからよく起こるようですね。超常現象のせいにして不用意に恐れるより、脳を働かせたらいかがですか。

  深層心理に働き掛ける命令は、普段は表面に現れません。特定のキイワードやきっかけがスイッチとなり、命令の実行が起きたとしてもその後本人は行為の記憶を持ちません。
  あなた方は催眠術に過剰な期待を抱いているようですから言っておきますが、よく陳腐な話であるような「電話がかかってきて、そこで催眠術をかけられる」ということは有り得ません。それを行うには一度相手に会ってあらかじめキイワードのインプットをしておくことが必要です。その時点でまずおとなしく催眠術にかかってくれる人間などいません。

   これで判りましたか。催眠術で殺人は不可能である、と答える人間は禁忌行為もありますが、日常で催眠状態にすることが困難ということを大前提として話しているのです。

    本当にどうなっても構わないのなら。
    私の芸術に値する殺人依頼であると思えるなら。
    マジックショーに観客としてご参加ください。
    報酬など、無用ですよ。そう、形ある報酬はね…クックックッ。





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