多分花鳥風月金田一、コナン的読み物ページ対談→対談2


◆対談2◆

 

目次

7.聖水事件8.監察医制度9.トリックと非科学

 



7.高遠氏の行動を語る

氷河「私ねー、宗教関係は全然詳しくないのでわからないんですけど今回の決死行の
冒頭で高遠さん、聖水を飲ませてたじゃないですか。いろんな人から『聖水はあんな使
い方はしない』って言われてますよ?」
高遠「…それはカトリックの慣習に照らし合せた上での話でしょう?トリックに常識を持
ち込んでどうしようというのですか?」

明智「宗教論争を持ち込む気はありませんが、変なところでこだわる方は多いですね。
ま、プロテスタントの国で育っておきながら、ローマ・カトリックの地でマジックの勉強を
する、無宗教論者というよりは無節操人間というべき人もいるようですから、キリスト教
になじみのない人間が首をかしげたくなるのも仕方がないですよ」

氷河「明智さんも、いちいちイヤミをいわないんですよ。だから陰でイヤミ警視って…あ
わわっ、今上着の内ポケットに手をいれましたね!?(会場爆笑)脅しはよくないっス!仮
にも警官が!」
明智「そう思うならさっさと話を進めなさい」
氷河「何か、納得いかん…。まあいいや。じゃあ、ややこしくなりそうなので先に聖水の
件から。つまりはトリックとして聖水を飲ませたのだから、懺悔をあんなとこで聞くのは
おかしいとか、聖水を飲ませるのはおかしいという指摘自体が愚問ということでしょうか」
高遠「もちろん。それを指摘するのであるならば今まで起きた数々の事件においても
不自然な点は山ほどあります。トリックを成立させる上での伏線を指摘されたのは初
めてですよ。フン、もう少し考えるんですね」

氷河「たかちゃん、そら指摘したくもなるって。指摘というよりはツッコミだけどね。さて、
明智さんはこの冒頭について何かご意見はありますか?建設的なものが聞けるかと
ちょっと期待してるんですけど」
明智「では、その期待に応えなくてはなりませんね。そうですね。強いてあげれば、
あの状況下において考えうるのは、彼(と高遠さんをチラリと見て)が成りすましてい
たのは、神父ではなくて牧師ではないかと思います」

氷河「…どう違うんですか…(すでに考える気なし)」
高遠「プロテスタントが牧師、カトリックが神父。カトリックは聖水を清めとして使うのに
対し、プロテスタントはそういう使い方をしません。また、プロテスタントは聖書のみを
認めているのに対し、カトリックの方は儀礼を大切にしますね。つまり、プロテスタント
の教会の方が非常にシンプルなものであるということです。だからといってこの二つは
仲が悪いわけではありませんけどね。そして冒頭の様子から警視はあそこがプロテ
スタントの教会であり、それならば『牧師』という呼称でなければおかしいと思われた
のでしょう」

氷河「でも呼んだのはあの人の勝手ですし、高遠さんは肯定も否定もしてませんよね」
高遠「そういうことです」
明智「つまらない指摘ですけどね。この類は言い出したらきりがないのでこの辺りに
しておきましょう」

氷河「はーい」



8.犯罪を容易にさせる監察医制度の不備を語る

氷河「これは、相方が小説のトリックの要として使っていたので私も大分勉強させてもら
ったんですけど、監察医制度がない県ではやっぱり犯罪の隠匿とかはあると思いますか
?」
明智「ですから、医師の判断によります。専門的な話はここではやめておくとして、そうで
すね、何かいい例を挙げるとすれば…」

高遠「心臓の弱い人間に、ある毒物を飲ませれば心臓発作で死んだように見せかけること
が出来ます。監察医制度のない地域ならまず完全犯罪ですね」

氷河「それって…マジっすか?」
高遠「その毒が何かはあえて言わないでいてあげましょう。…クックック。そんな毒は数多
く存在していますけどね」

明智「氷河君。その前に監察医制度をちゃんと説明しないといけなかったのではないです
か」

氷河「あっそうか。えーと、何で死んだかを調べる『検死』という制度があって、法医学の
専門家がこれを受け持つようなシステムになってんのが監察医制度、でいいですか?」
明智「随分乱暴ですがいいでしょう。そして、先ほど私が医師の判断によるといったのは
医師法第21条の変死届義務に基づきます。明らかに犯罪に関わると思われる所見だけ
でなく、異状死体はすべて該当します」

氷河「異状とは?」
高遠「やれやれ、貴方の脳は情報の収容量が少なすぎますよ。異状死体とは即ち、死に
至った理由が明確でないものです。病死であっても死に至った起因があるでしょう?そう
いうことです」

氷河「極端な話、ずっと入院してて見取られつつ亡くなったのでない限り、変死届は出さな
くてはいけないっつーことですか?」
明智「そうです。病死に見せかけて殺した例はいくらでもありますからね。少し違いますが
多いのは、高齢者の自殺死体を家人が発見、布団に寝かせ医者を呼ぶというパターンで
す。すんでのところで発覚していますが、中にはきちんと調べないで『老衰による自然死』
と判断した医者もいましたよ。首にはっきりと縊溝が残っているにも関わらずね。家人は世
間体を考えてやったことでしょうが、保険金詐欺にもつながります。ですから法医学の専門
家が全国に配備されることが望ましいのです」

高遠「間違ったままの方が良いこともありますけどね…」
明智「そんな都合のいい真実は有り得ません」
氷河「で、話が大分脱線してしまいましたが、監察医制度がないとどうしてまずいのかとい
う話に戻ります。どうしてなのでしょうか」
明智「多くの方が勘違いしておられるのですが、監察医制度のないところでは明らかに犯
罪性のある死体のみしか解剖は許されていないのです。そして医師は、医師法に基づい
て通告をするという義務感が薄い為、所見で疑わしいところが発見されなければ大抵死
亡診断書を書いてしまいます。外因死などはすべて通告の義務を負うのですが」

高遠「そのおかげで、つまらない感情の高ぶりで友人を殴り殺してしまった人間は、転倒
時に友人が頭部を強打したと証言することによって罪を免れるわけですよ…」

氷河「高遠さん、分かり易くて嬉しいけどヘンに現実味があって怖いよ…(泣)」
高遠「もっとも、そのうちつじつまの合わないところが出てきて露見はするでしょうけどね。
しかし、すべてが日の下にさらされるとは限りませんから」

明智「…警察の検挙率を侮ってもらっては困ります。そして、すべての犯罪者に良心が欠
如しているわけではないのですよ」

高遠「おや、負け惜しみはよくありませんね、警視。そう思うのなら穴だらけの法制度を早
く何とかすることですね」

明智「百も承知です」
氷河「はいはい!それでですね!解剖の話にいきましょう!えっと、遺族の反対があれば
解剖できない場合もあるということですか?」
明智「ええ。行政解剖などは了解を得るのが慣習になっていますね。司法解剖は裁判所
から許可をもらうので、遺族は関係ありません。手順としては、死体を警察と監察医が検
視(検死)し、死体検案調書を作成します。次に死体検案書を書きますが、外見から死因が
判明しなかった場合や犯罪性が明らかな時は解剖に回しますので検案書の死因欄は『不
詳』となり、『解剖中』であることが明記されます」

氷河「あ、今サンプルが届きました。これが死体検案書(死亡診断書)ですか」
高遠「確か、平成7年1月1日を持って50年ぶりに改正されたはずです」
氷河「へぇー。で、それからどうなるのですか?」
明智「解剖へ回すにあたり遺族へ説明をします。そうですね…最近は減りましたが半分以
上の方が反対されますね」

氷河「解剖に対して偏見があるから?」
明智「ええ。内臓を抜かれるのではとかですね。心情もあります。死んでまで体を切り裂か
れたくないと。気持ちは十分分かりますが、もしも犯罪が隠匿されているのであった場合
犯人を逃がすことにもなります。それに、新たな細菌やウィルスで死亡した可能性もありま
すのでそれを説明すると殆どは承諾されますね」

高遠「…気が気でないのは…ククッ、身内の犯罪者だけでしょうね…クックック」
氷河「は?どういうこと?」
明智「残念ながら、時々あることなのですが、どんなに時間をかけて説明してもかたくなに
解剖を拒否されることがあります。そんな時私達は最後の手段として『解剖されると何かま
ずいことでもあるのでしょうか』とお聞きします。これで100%承諾が下りるのですが…そう
いった場合身内によって殺害されていることも少なくないんですよ」

氷河「あっ!それを隠す為に!?」
明智「ええ。その場で許可が下りなくても警察は強制執行権を持ちますからいずれは発覚
するのですが。なるべくなら遺族の許可を得てからという思いやりなのですけどね」

高遠「小さな親切、何とやら…ですね」
明智「…(無視している)。死体検案書は死亡診断書も兼ねていますので、解剖中でなければ
遺族はそのままそれを役所に提出し、諸々の手続きをとることになります。これが主な流れ
ですね」

氷河「いやー、長かったッス(笑)。でも、これからミステリーものを読む上で参考になったっス。
さすが実際に関わっている人は話にリアリティありますね。高遠さんも、別の意味で…」
高遠「そういうことになりますね…クスクス」



9.トリックと非科学を語る

氷河「ここでは、マジックとか犯罪とかすべてをひっくるめての仕掛けについて話をしたいと
思うのですが、まず仕掛け人として高遠さんにお聞きします。今までにどう考えても成立が
説明のつかないトリックとかマジック、犯罪をご覧になられたことはありますか?」
高遠「…仕掛け上で、ということですか?それはありますよ、もちろん。見破れなかったのでは
なく、偶然から成立することになった犯罪や第3者の介入によって当事者の意図したところと
はずれた結果によるものですが」

氷河「つまりは偶発性のものですね。だから2度目はないってヤツですよね」
高遠「そうでしょうね」
氷河「では明智さんにお聞きします。説明のつかない出来事という非科学的なものは存在
すると思われますか?」
明智「マジシャンが行っている限り、必ずトリックはあるでしょう。カルト団体にしても、信じさ
せる為にあらゆるトリックを用いていますから」

氷河「確かにね。金を巻き上げる霊能者は誘導尋問によって情報を引き出して、さも見通し
たかのように言ってみせますからね」
高遠「おや?君は超常現象を信じている方だと思っていたのですが」
氷河「そりゃ確かに、そっちの体験はありますけど。だからといって説明のつかないことすべ
てをそういったもののせいにするのは違うと思うし、そんなことをしていると本質を見失うんじゃ
ないかと思うんです」
明智「賢明な考え方ですね。確かに理論では説明のつかない出来事や確率が存在するのは
事実です。ただ、それに依存するようになってしまうのは人間としてどうかと思います」

高遠「おや警視。非科学的なものはお嫌いだったのではないですか?」
明智「非科学的なものを声高に唱え崇拝しようとする人が嫌いなだけですよ」
氷河「え?オカルトマニアとか?んー、ウチの相方そっちにも造詣が深いんですがどうしたら
…(笑)」
明智「中村氏は確かに実践としてのオカルトも学んでおられるようですが、あくまでも知的好奇
心からでしょう?盲信しているわけではありませんからね。そうではなくて…」

高遠「呪いを脅しの材料に使ったり、自己の能力を誤信もしくは過信させようとする輩がお嫌い
ということでしょう」

明智「…まあね」
氷河「ああそれなら大丈夫です。確かにいい気持ちはしませんものね。あ、いけない、本題から
ずれてしまいました。それでは、呪いとか幽霊とかは非科学的な分野になりますが、そういった
現象についてどう思いますか?」
高遠「殆どは気のせいか、何らかの錯覚によって説明がつくでしょうね。偶然では有り得ない、
とよく言いますが実は偶然の介入する確率は意外に高いものです」

明智「本人が自覚していないだけで成立の条件が揃っていたりね」
氷河「じゃあ、マジックとかミステリーの仕掛けを多く知っていれば知っているほど、そういった
仕掛けを故意になされたものも含めて見破る確率は高くなるというわけですね」
明智「ええ。少し本題から外れるかもしれませんが、例えば何らかの事件を目の前にして『何かが
おかしい』と感じる確率は、経験を積んだ警官の方がずっと高くなります。それは着眼点をいくつ
も持てるようになっていて、物事を多面的に観察できるからなのです」

高遠「…クスッ。では私からも補足してあげましょう。ただの犯罪ではなく、常にトリックを積み重
ねて殺人を冒してきた人間は、後の犯行になれば成る程そういった人間相手への仕掛け方法を
学習します。つまり優秀なマジシャンほど、良き観客の目をくらます方法にも長けている、という
ことですね…クックック」

氷河「何か…どさくさに紛れてとんでもないことを聞いたような…(笑)。えーと、まとめますよ。偶然
の介入したものでない限り説明し得ない出来事はないのであって、まあ大抵のマジックやトリック
の仕掛けは見破れると。それも経験を積んでいればいるほど良しということですね。伏線に騙され
ることはあるにしても(会場爆笑)」
明智「一言多いんですよ、君は」
氷河「はいはい、すみませんね。でも確かに世の中には説明のつかないことがあるっていうけど、
目の前で見てみないと信じられないですよね。マリーセレステ号だったっけ、船員消失事件とか、
バミューダ海域の謎とか」
明智「資料だけでは、ここはどうだったのか、という疑問は解消されません。その疑問がなくなら
ない以上いくつも成り立つ仮定が消去できませんから、結論を出すことが出来ないのですよ」

高遠「不意に起こるから準備が出来ない。それ故に研究材料とすべき情報収集が出来ず、遅々と
して謎は解明されないわけですね。しかし、私としては説明のつかない出来事があっても構わない
と思うのですけれどね」

氷河「どうしてですか?」
高遠「別に空想論者を気取るわけではありませんが、天文学的数字の確率の下に起こりうる偶然を
奇跡と呼ぶならば、それを解明しようとするのは愚の骨頂でしかない。完成された『非科学』は現段
階の科学レベルでけがして良いものとは思いません」

明智「発生の確率が0でない限り、起こりうることと済ますのも芸がないとは思いますが、確かに理
解を超えた現象を何とか科学で説明しようとやっきになるのも夢がないですね」

氷河「そうですねぇー。謎は謎のままでも面白いかもしれないですけど…でも、高遠さんのマジックの
タネは気になります。今度教えて下さい(笑)」
高遠「お断りします(会場爆笑)」
明智「…氷河君…。(気を取り直して)いいことを教えてあげましょう。彼の母近宮氏から聞いた言葉な
のですけれどね、マジシャンは習い初めにこう言われるそうですよ。『マジシャンにはそのマジックを
見せるべきでない対象がある。ひとつは動物。ひとつは子供。そしてひとつは同業者』って」

氷河「そのココロは?」
高遠「動物はマジックの意味が分からず、子供はしつこくタネを知りたがる。同業者の前で得意げに
マジックをやってみせるのはネタばらしをするようなものだ。そういうことです」

氷河「あれ?私は」
高遠「真ん中に決まっているでしょう(会場爆笑)」


(対談作成/氷河&中村)

 

 

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