多分花鳥風月金田一、コナン的読み物ページちょっとだけ怖い話→話


誰が引きとめたの?



まったく記憶に無い出来事、そんな話です。




 私が小学生の頃です。夏休み、共稼ぎだった両親は当然相手をしてくれるはずもなく、転校したてで
友人の居なかった私と弟にはとても退屈な毎日でした。
 週末も休むことなく働く両親は、それでも悪いと思ったのでしょう。ある時田舎から父方の祖母に出て
きてもらい、留守番を頼みました。
 ですが祖母も家事をしたり一人で出かけたりとあまり構ってくれるような人ではなく、あまり生活に
変化はありませんでした。何より、こう言ってはなんですがいつもいない人が家に居る状態の方が、私達
には窮屈なことでしかなかったのです。
 ある日。その日は朝から雨でした。祖母もあまり長い間家を空けられないということで、昼過ぎに帰る
ことになっていました。ですが、私と弟は執拗に止めたのだそうです。いつも祖母が何をしていようが
部屋にこもりきりだったのに手を掴んで離さない、大声で泣き喚くなどそれはもうひどかったそうです。
どちらかといえば大人の中で育ったせいか私も弟も諦めが早い方で、てのかからない子供でした。だか
ら祖母はあまりの騒ぎようにただ唖然とするばかりだったそうです。
 不思議なことに私も弟もまったくそれを覚えていません。弟は私と違い非常に記憶力が良く、子供時代
のことも殆ど覚えているのですが、彼もこれに関しては雨がひどかったという記憶しかないそうです。
 そして。雨はいっそう激しくなり道路が洪水状態になっていました。祖母はバスの時刻が過ぎている
ことに気づき、天候のせいもあって帰るのを諦めました。祖父を早くに亡くしたため一人暮らしなので、
一日二日遅れたことで影響はありません。
 夕方、帰宅した両親は祖母がまだいることに驚いたようですが、降雨量が多く電車も運休している
状態ということで天候が回復したら帰るということに落ち着いたようです。そして、どうして私達が執拗に
帰宅を止めたのかも不思議がっていました(この辺りも記憶がまったくありません)。
 深夜。突然電話が鳴りました。祖母の隣に住む方からです。電話に出た母は慌てて父を起こしました。
私は翌日になってから話を聞かされました。
 土砂崩れで、祖母の家がつぶれたと。
 あの時祖母が帰宅していたら、祖母はこの世の人ではなかったのです。ちょうどいつも祖母が寝起き
している部屋には天井の辺りまで土砂が流れ込んでいました。
 私達は祖母からお礼を言われ、しばらくこの話は親類の間に広まっていました。
 この子には不思議な力があるね。
 そう言われながら。
 ですが、私には未だその時の記憶が無いのです。雨が降る外を眺め、ただ両親の帰宅を祈っていた
ことしか…。
 誰が、祖母を助けてくれたのでしょうか。


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