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義理堅い人
幽霊や科学的に説明の出来ないこと。
それに最も近い部分にいるのは、
皮肉なことに物的証拠を必要とする我々なのかも知れません。
殺人に向き合う日々の中、ふと説明のつかないことを経験する。
そんな日々が確かにあります。
不況の中、会社が倒産し、どうにもならなくなって強い責任感にかられるあまり、自殺という手段を
とってしまう人がいます。本当に悲しいことです。
夜中こっそりと家を抜け出し、近くの公園で首をつっていたという事件もいくつも見てきました。
仕事ですから、自殺だろうと推測はついてもきちんと捜査します。
家族が不安げに見守る中遺体を降ろし、監察院に運ぶ手配をします。呆然としている家族に、思わず
もらい泣きをした刑事もいます。
これはある所轄署の刑事から聞いた話です。
ある日近くの雑木林で首吊りを発見したと聞いて駆けつけたその刑事は、間もなく到着した機捜と
ともにそれが自殺に間違いなく、事件性はないことを確認し監察院へ運ぶ手配をしていました。発見が
遅れたため腐乱が始まり、落ち葉も幾つか付着していたそうです。遺体を慎重に木から下ろし、ゴミなど
を払い落とした後車へ運び込み、彼は間もなく入った別の事件への出動要請にその場を後にしました。
数日後、他の事件の捜査を終えて署へ戻った時、同僚が「不在時に訪ねてきた人間がいる」と
声をかけてきたそうです。
訪問者はその刑事が不在であることを告げられると、「お世話になったとよろしくお伝えください」と
頭を下げて立ち去ったそうでした。同僚から人相や姿を聞かされたけれども珍しく心当たりがなく、その
刑事は首をかしげながら書類整理に取り掛かりました。
程なくしてその刑事宛に電話がかかってきました。いつもお世話になっている監察院からで、「今
亡くなった人が訪ねてきた!」と電話の向こうで大騒ぎしているのです。
問いただしてみると、数日前に確かに解剖したはずの人間だったということで、受付の女性が真っ青に
なっていたのだそうです。
それを聞いて刑事はようやく、不在時に訪ねてきた人が数日前自殺した人であったことを思い出した
といいます。
お世話になったお礼を言う為にわざわざやってきたというその義理堅さは、生前の人柄をよく表して
いるのでしょうね、とその刑事は言っていました。