多分花鳥風月金田一、コナン的読み物ページちょっとだけ怖い話→話


死の制裁



この広い世界には、犯罪を犯したものには同等の罰を与える
という風習を持つ民族がざらにいます。
ハンムラビ法典、といった方が分かりやすいですかね。
私が出会った女性もその民族出身者でした。





 犯罪者には暗黙のルールというものが存在します。例えば、専門外のことに軽々しく手を出さない、
縄張りを荒らさない、仕事がかち合った時はどちらかが妥協する、など。
 中には1人だけ抜け駆けしようとする愚か者もいますが、実力がなければすぐに淘汰されるだけです。
 ああ、それから、目的以外の余計なことは手を出さないこともルールですね。ま、頭のいい犯罪者
ほど欲を出さないものです。

 その男はどちらかと言えば三流の成り上がり者でした。たまたま大物と知り合いだったというだけで、
彼自身の評価は決して高くなかった。
 仕事の依頼である民族に会った時の事です。その大物からの依頼だった為、男が監視役でついて
きていたのですが、どうも様子がおかしく私は不審に思っていました。私の仕事が終わってからも、
所用で残るというので男を残して帰ったのですが、風の噂に民族の宝を言いくるめて騙し取ったらしい
と聞きました。そして民族の神官の娘を襲ったとも。
 流石に気分が悪かったのでその男を捜して民族に突き出そうかと思いましたが、行方が知れず、
数ヶ月経った時その神官の娘と名乗る女性が私を訪ねてきました。
 私は男のしでかしたことを丁重に詫びましたが、女性は私に非はないと言い、この地にしばらく
滞在するため宿を紹介して欲しいと言いました。
 もちろん男の雇い主でもある大物を少し脅して、それなりのところを用意させましたけどね。

 しかしその日から、女性の様子が日に日におかしくなっていきました。おかしく…というのは変な
表現ですが食事をとらなくなり、体は痩せ細り、死を待つ人間のそれになっていったのです。医師にも
見せましたがまったく原因はわからないと言う。しかも…彼女は妊娠していました。考えるまでもなく
相手はわかりましたが。
 私は彼女に尋ねました。何故これほど衰弱していくのかと。
 彼女は静かに、「神を裏切った私への制裁が下るのだ」と言いました。つまり神に仕える者であり
ながらこのようなことになった自分を、神は許さないのだというのです。
 私自身神など信じませんが、信仰をもつ人間にとっては神への背徳行為はアポトーシスにつながる
ものなのでしょう。
 せめてもの償いにと私は、「その男は私が責任を持って制裁を加えましょう」と伝えました。しかし
彼女は首を振り、「我々の神はその男を許さない。神はその男に復讐する」と弱々しく言い、息を
引き取りました。

 これほど後味の悪かった仕事もありませんね。苦々しい思いでその女性を葬り、民族の方へは
死を知らせました。男の行方が調べられなければ、バックの大物に責任をとらせようと思っていましたが、
数日後男の行方はあっさりと判明しました。
 男は、大物が用意した隠れ家の中で、死体となって発見されました。猛獣に食い散らかされたかの
ように、部屋中にバラバラになった死体が散乱していたそうです。発見したのも同業者ですが、流石に
一週間は食事がまともにとれなかったようですね。
 ただ…この話はここで終わりではありません。
 女性を葬る際、体を調べていた医師が不思議そうにつぶやいたのです。
 死の直前まで存在していたはずの胎児が、跡形もなくなっていると。
 そういえばあの男の死亡時刻は、女性とほぼ同じ時刻だったようです。

 世の中には不思議な民族もいたものです。


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