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実験棟にて
夜の実験棟というものに足を踏み入れたことがありますか?
機械の出す音以外何も聞こえないというのは、
ある意味幸せなのかも知れません。
私が学生だった頃の話です。
いつも夜実験をやっていたのですが、時間がかかるのでのんびりと本でも読みつつ
待ち時間をすごしたり、音楽をかけながら実験をしたりと好きにやっていました。
ある時のこと。
いつも夜は私以外にいないので自由にやっているのですが、他の部屋や階下の部屋にも
学生がいたので怖くはなかったのに、その日はたまたま年末年始ということもあって静まり
返っていました。本当に人っ子一人いない、というような状況です。
流石にこれは…と思いました。その頃深夜の出入りには学生一人一人に与えられた鍵
が必要だったのですが、面倒くさがりやでいい加減な人間がたまに、ドアを開け放して鍵が
かからないようにしていたりすることもあるため、実質誰でも出入りが自由だったからです。
しかし実験は始めてしまっていたので、少なくともきりのいいところまでやらないと、準備した
ものがすべてダメになってしまいます。
深夜2時を過ぎた頃でしょうか。
窓から外を眺めていると、白衣を着て自転車に乗った人影が何人か、やってくるのが見えました。
同じように夜中に実験する人間はいましたから、「おお、仲間が来たじゃん」とか思って
ホッとし、読書に戻りました。
その途端突然、コンコン、とドアをノックする音が響きました。
うちの実験棟は古いので、足音を響かせず歩くことは不可能です。必ず音が響きます。
確かにゴムぞうりを履いている人もいるので響かないことだってあるんですが。
ちょっとビックリしながらも私は「何ですか?」と声をかけました。
ドアの向こうはシーンと静まり返っています。
気のせいかな?と思い、席に戻ろうとすると、またコンコン、としてきました。
返事をするのも面倒だったのでドアを開けたのですが誰もいません。
ゾッとしました。
が、ここは実験棟ですから廊下にも様々な機器があり隠れるところはいくらでも
あります。それに私の同級生は皆イタズラ好きだったので、そういうのをやりにきた
んだなと思い、ドアのそばに椅子を持って行って、次にコンコンときたらすぐ開けて
やろうと待っていました。
コンコン。
すぐに音はしました。
――窓のほうから。
私はそちらを見ずに鞄を持って飛び出し、明け方まで実験室に戻ることが出来
ませんでした。
流石に深夜、向こうが見える窓を直視する勇気なんてありません。