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呼び止める声
呼び止められても止まらずに進める、ということは
そういう意味では幸せなのかも知れません。
そこに留まってしまえば何をされるか
わからないのですから…。
これはヨーロッパをあちらこちら点々としていた時に知り合った方から聞いた話です。
ロープウェイというと日本ではどういう想像をするか知りませんが、国によってはかなりの
勾配になっているところもあります。その知人が乗ったロープウェイは山頂への道途中に
少々長いトンネルがあり、そこは薄暗くて見る物がなにもないため速度を上げて通過する
ようになっていたそうです。
乗った時には人もまばらだったので上りとしては後部にあたる場所を陣取り、彼は外の
美しい景色を眺めていたそうです。
さて…。そのトンネルに入り速度アップの軽い重力を感じながら、見るものもなくぼんやりと
遠くなっていく入り口を眺めていた彼ですが、ふと、風に混じって奇妙な声が聞こえるのに
気がついたそうです。
「おぉーい、おぉーい」とね。
車内を見回しましたが皆退屈なのか座り込んだり好き勝手に話をしているだけで、彼は
気のせいかとまた後ろを見ました。
途端彼曰く「気絶するかと思った」という出来事が起こりました。
真っ暗な中何かが手を振りながらこちらへ走ってくるのです。
最初誰かがいたずらしているのだろうかと彼は考えました。しかしすぐ思いなおすことになり
ます。
ケーブルカーと違ってロープウェイ用のトンネルです。かなりの高さがありますから、その
走ってくるものが本当に人間であるとすれば、宙に浮いている以外考えられない。
パニックになり彼は座っていた中年男性に後ろを指差しながら話しかけたところ男性は、
首を振りながら「気にしない方がいい。いつもここはそうなんだ」と諦めたように言ったそうです。
あれは追いかけてくるだけで何もしない、追いつきもしない。
そう言われたところで恐怖が収まるわけでもありません。
結局彼はトンネルを抜けてからも振り返ることが出来ず、駅に着くまでしゃがみこんだまま
だったとのこと。
帰りもかなり躊躇したらしいですよ。
ロープウェイとは、見える景色を売りにしているものですから、必要以上に見えるものは
どうしようもないですね。皮肉なものです。