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密告人
事件解決に欠かせないもの、それは情報です。
刑事が苦労して聞き込みをして得たもの、市民からの情報。
そして、匿名の密告電話による情報で解決したこともあります。
あの事件も一本の電話で解決しました。
そう、匿名の…。
私達刑事が悔しさを感じるのは、捜査の甲斐なく事件が強行犯第2係に引き継がれることになった時です。
強行犯第2係というのは、何度かメディアでも取り上げられていますが、発生から半年以内に解決しなかった
事件(捜査本部は結果にかかわらず半年で解散します)を引き継いで捜査する係です。ケイゾク、という
言い方の方がおなじみでしょうか。
その事件は非常に手がかりの少ない殺人事件でした。一家5人が深夜何物かに惨殺されるという
極めて残忍な事件であり、現場に立ち会った刑事は幼い子の死体に涙をこらえ切れなかったそうです。
この家族は誰からも好かれるような人達で、生活や仕事のトラブルもなく、捜査は暗礁に乗り上げました。
そのまま月日は過ぎ、ケイゾクとなり、1年が経ちました。捜査本部の指揮を取っていた私は数人の部下と
共に殺害現場へ赴きました。家はその日をもって取り壊されることとなっており、花を手向けた後、私達は
再び周辺へ聞き込みに回りました。
しかし有力な手がかりは得られず捜査一課へ戻ることとなり、部下の間にもお宮入り(迷宮入り)の雰囲気が
出始めていました。
私は管理官という立場でして、いくつもの捜査本部を同時に抱えています。皆さんにはひどい話に
聞こえるかもしれませんが、いつまでも一つの事件にかかわっていることも出来ず、次の事件の書類に
目を通していました。
午後から急に天気が崩れ激しい雷雨となりました。捜査一課には100人以上が所属していますが、
常時待機しているのは10人もいません。大部屋はがらんとして静まり返っており、私は静かに仕事を
こなしていたのです。
その時机上の電話がなりました。私の電話番号は一般公開されていませんので、内線か部下からの
連絡かと思い何の気なしに出たところ、応答がありません。
「もしもし? こちら捜査一課ですが?」
幾度か聞き返した時です。
「××××…」
それは、ある住所でした。ひどく聞き取りづらい声でそう告げると電話は切れてしまったのです。
私は首を傾げました。密告電話にしても、殆どの人間が事件の名前を告げるものです。真実を暴く
為にリスクを背負って電話してくるのですから、私達が理解できなければ意味がありません。
しかし、しばらく考えて私はあることに思い当たりました。1年前の一家惨殺事件、その容疑者の中に
先ほど聞いたものと同じ住所の該当者がいることに。
私はもう一度その容疑者を洗いなおすことにしました。
するととうとう彼は自白したのです。以前、被害者に仕事上のトラブルで恥をかかされたことがあり、
それをずっと根に持って復讐の機会を狙っていたこと。大したトラブルでもなく、その後何事もないように
彼が接していたため周囲はまったく気がつかなかったこと。
事件は1年ぶりに解決しました。
ですがその電話が誰からだったのか、しばらく私は引っかかっていました。
それについても、意外な形で明らかになりました。被害者のお子さんと友達であるという子の母親に、
たまたま会う機会があったのですが、被害者宅で飼われていた猫をあの事件の後引き取ったそうで、
あの電話があった日から行方不明になっているのだそうです。被害者宅ではとても大切に飼われて
いたらしくその母親は非常に気にしていました。
私はもちろん非科学的なものは信じません。ですがこの奇妙な符号は何なのでしょう。
あの電話のバックから聞こえてきた音。それは鈴の音でした。そしてその猫も、金色の鈴を首輪に
つけていたそうです。
猫は、あの家族に出会えたでしょうか。