多分花鳥風月金田一、コナン的読み物ページちょっとだけ怖い話→話




巷には様々な本が溢れ返っていますが、
中には「いわく付き」とされるものもあります。
ですがそのどれだけが果たして真実を語っているのか。
しかしその逆に、本当であるが故にそれを知らなければ、
大変な目に遭う事もあるでしょう。




 私が「小渕沢英成」を演じていた頃のことです。イタリアの知人から国際電話がありました。どうしてもある本を
今すぐ預かって欲しい、というのですが、送ることは出来ないと言うのです。
 私自身今日本を動くことは無理だと断りましたが、それでも彼はどうしても今すぐ預かってもらいたいと譲らず、
仕方なく幽月さんにお願いすることになりました。丁度彼女はドイツの方へ旅行に出ていたので、帰り際寄って
もらうように伝えたんです。――ええ、あの不幸な事故の前ですね。
 彼女は英語は多少できますがイタリア語を話せないので、私の方から英語の話せるイタリア人のガイドを手配
しておきましたが、そのガイドや幽月さんの話によれば、彼は相当怯えていたということでした。
 事情により名前は出せませんがイタリアでは結構名の知られた密売人であり、怖いもの知らずの性格でのし
上がってきた人間です。私は首を傾げました。
 ともあれ無事に本は私の元へ到着したわけですが、伝言によればしばらく預かって欲しいというだけで、あいまい
なことを嫌う彼にしては珍しいメッセージでした。
 最初に違和感を感じたのは、幽月さんが本を手渡して帰られた時でした。私の携帯電話の着信音がして、応対
したのですが、変な音がするばかりで私は間違い電話だろうと判断して通話を切りました。しかし。
 私は当時携帯を3つ所持していましたが、1つは「小渕沢」用、1つは仕事用。残りの1つは発信専用である為、
用のない時は電源を落としています。それが、鳴ったのです。
 その時は単なる作動ミスであろうと気にも留めませんでした。
 預かった本は荷を解くなということでしたので、幾重の紙に包まれ紐を何重にもかけられた状態のまま、玄関の
小棚の上へ放置していました。
 次に奇妙な感覚に襲われたのは…確か、午前3時だったと思います。次の日は「小渕沢」としての仕事の日
でしたから、早々に就寝しようと寝室に向かいました。
 何かおかしい。
 そう思ってスタンドを付け――ああ、寝室に入る時はいちいち電気をつけませんから――ると、床一面が水浸し
でした。…最上階でしたから、上からの水漏れはありません。
 それにあれはただの水ではなく、観察してみれば、湖水だと分かりました。生臭い、濁った水でしたし、水草も
落ちていましたからね。
 ただ、これらは仕掛けさえしておけば決して不可能なことではないでしょう。立場上敵も数え切れませんからね。
まあ近いうちに住処を変えた方が良さそうだ、と思った程度です。
 その日はソファをベッド代わりにすることにして引き返した時、チャイムが鳴りました。私の居場所を知っている
のは幽月さんと数人の信頼の置ける人間だけです。が、こんな時間に連絡もなしで来る様な人はいません。
 私はインターフォンと共に設置してあるモニター画面へ目をやりました。が、人影はありませんでした。周辺には
身を潜めるような場所もなく、カメラはぐるりと1周するようになっていますから、誰かが押せば映らないはずは
ありません。
 流石に不審に思い、私はナイフを忍ばせて玄関へ向かいました。もちろん電気はつけずに気配をうかがい
ましたが何の気配もなく、誤作動かと戻りかけた時、再び鳴りました。
 チェーンは外していましたから数秒もたたずにドアは開いたはずです。廊下は静まり返っていました。ドアを
開けた目の前にチャイムはあるのですが、少し濡れていたように思いました。そして床もちょうど30センチ直径
程度の水溜りが出来ていました。雨も降っていなかったはずですし、濡れたとしても到着するまでに点々と跡が
残ります。確かに、これはどんなトリックだろうと思いましたね。
 一通り調べてチャイムに異常がないのを確認してからドアを閉めかけた時です。
 ピンポーン。
 私の目の前でチャイムは鳴りました。ええ、ボタンが沈んだのですよ。見えない手によって押されたかの
ようにね。
 動作を止めることはしなかったのでそのままドアは閉まりましたが、その時つい先ほどまで置いてあった本が
無くなっているのに気づきました。ドアを開ける直前まで棚の上にあったのは確認しています。
 もちろん施錠はどこも完璧でしたし、ドアは私がふさいでいました。不完全ではありますが密室だったのですよ。
 ほんの1分にも満たない時間で、この私の目の前から堂々と本を持ち去った存在。
 それが何であるのか、私は追及しようとは思いません。持ち主であった「彼」がその日を境に忽然と姿を消して
しまった以上、返す必要はありませんからね。
 ただ、この消失のトリックは誰にも解けないでしょう。
 どんなマジックにも必ずトリックがあり、仕掛けが存在するもの。ですが…いえ、これ以上のコメントは興ざめ
でしょう。

 ああそうそう。その本は結局何であったのか分からずじまいでした。手がかりですか? さあ…。
 考え付くとすればあの有名な神話ですね。彼の日記にも書き残してありましたよ。
 C ・ t ・ h ・ u ・ l ・ h ・ u 、とね。




余談
彼の話を聞いている途中、彼が座っているソファの後ろにかかっていたカーテンが突然舞い上がった。
風にそよいだというようなものではなく、誰かが持ちあげたかのように、だ。
もちろん取材していた部屋は窓を開けていない。カーテンの後ろには当然、誰もいなかったのだ。
そして、この暗黒神話は語る者に必ず不吉な現象をもたらすと言われている。
これを掲載すべく打ち込んでいる今も、部屋の中は怪音がし、カーテンが揺れる始末である…。



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