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捜して下さい
突然知らない人に、「一緒に探して」と頼まれたらどうしますか。
引き受けますか?
引き受けた後でそれが、とんでもないものだったら…
それでも貴方は引き受けますか?
あれは小雨の夜でした。予告状通りに、あるものを盗み出した俺はいつものようにハンググライダーで
飛行、帰路についていました。
結構寒くてね、あまり濡れると重くなって飛べなくなるのもあったし、適当な時点で降りるつもりでした。
どこのあたりだったか、雷が鳴り出しまして、ちょっと危険と思いあるビルの屋上に降り立ちました。
グライダーを畳んで変装し、屋内に入ろうと振り返った時です。
「捜してもらえませんか」
女性が立っていました。そうですね、白いブラウスに緑色のスカート、薄手のカーディガンを羽織って
いて夏ではありましたが少し違和感を覚えました。
とっさに警察か!?と思ったんですが(笑)、それにしては目に輝きが無く、では一般人なのかと判断
しました。ま、警察は雰囲気で分かりますからね。
「手伝ってもらえませんか」
落ち着いてよく観察すれば、ずっと捜し物をしていたのか衣服は汚れ髪も乱れていました。気の毒に
なって俺は、「何をお捜しですか」と尋ねました。
女性は、「昼間子供とはぐれたんです。捜しているのに見つからないんです」と言いました。
降り立った場所はちょうどデパートだったらしく、そこではぐれたということでした。
ここで見捨てるのも気が引けて、状況を尋ねました。最後に子供を見たのは玩具売り場に駆けて
いく姿で、自分は買い物を済ませてから売り場へ向かったそうですが見当たらず、放送をかけてもらったり、
家に連絡を入れたりしたのですが手がかりが無く、夫に申し訳なくてずっと捜していたということでした。
警察も、あまりにも長時間発見されないため誘拐の方で捜査を始めたらしく、デパートの探索は諦めた
とか。
しかし彼女は母親の勘でここにいるような気がして捜している、と言いました。
「俺が捜して見つかるかどうかわかりませんけどね、ここで会ったのも何かの縁だ。お手伝いしますよ」
確かそういう風に答えたと思います。彼女が嬉しそうな顔をし、キッドの上着を貸してあげましたよ。
小雨はまだ降っていましたからね。この可哀想な母親の力になりたかったんです。
小一時間ほど捜したかな。その間にパトカーが通りを何度も往復して、ちょっと気が気ではありま
せんでしたが(笑)、周辺を探し回っても手がかりは得られず、俺も流石に「これは見つからないな…」と
思いかけた時でした。
あることに思い当たって俺は尋ねました。「お子さんはもしかして、興味があるものを発見すると
夢中になってしまうたちではないですか?」と。母親は大きくうなずきました。
…ええ、最悪の事態ですよ。その近くに下水路があったのですが、その奥深くから「彼」は発見され
ました。警察もここまでは考えが回らなかったのでしょう。遊び飽きて外に出、裏路地で側溝の蓋が
一部外れていることに気づいた彼は好奇心から奥に入り出られなくなったのでしょう。…遺体には
擦過傷がついていました。丁重に遺体を引っ張り出しまして路上に横たえ、俺はマントで覆ってやり
ました。
母親は呆然として立っていました。自宅の電話番号を何とか聞き出し、俺は携帯で連絡を入れました。
もちろん深夜の非常識を詫びた上でね。
ところが電話に出た父親が妙なことを言うのです。
「その女性は誰なんですか!」
ってね。
話がかみ合わず俺はとりあえず電話を切ることにして、警察の方へ匿名の電話を入れました。俺も
いつまでも居るわけにはいかないので、パトカーのサイレンが聞こえてくるのを確認して立ち去ろうと
した時。
母親は忽然と消えていました。そう言えばサイレンに混じって「ありがとう」というような声を聞いた気も
します。
首をひねりつつ自宅に帰りついたのは3時を回っていたと思います。それから朝目覚し時計にたたき
起こされるまで目が覚めませんでした。
朝ニュースを見て俺は非常に驚きました。数日前そこのデパートで飛び降り自殺をした母子がおり、
子供の遺体がようやく見つかったってね。成る程、昨日は通夜だったのでしょう、そこに「母親に頼まれて
子供を捜していた」という電話が入れば不審に思うのも仕方ありません。
飛び降りた時にビルの突出した部分にぶつかり、その時に離れてしまったようでした。それが溝へ落ち、
奥へ流されてしまったのでしょう。
母親はずっと捜していたのでしょうか。死んだ日からずっと。子を思う気持ちはすごいですね。
あの母子が天国で幸せになっていることを願って止みません。