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9.高遠は用意周到である(金田一)

古本屋で「金田一少年の推理ミス」という本を見つけた。発行日からして随分古いのだが、とっくの
昔にブームは過ぎているだろうと思っていたので、金田一まで出ているとは思わずちょっと手にとって
みた。
まあ例に洩れず意地の悪い重箱の隅つつきだったが少々気になる箇所があったので、こちらも意地
悪く反論してみようと思う(苦笑)。

というわけで今回取り上げるのは「魔術列車事件の根幹となる、「団長バラバラ死体」は成立するか」。
結論からいうと(高遠にとっては)簡単に成立する。この意地悪な本が突っ込んでいるように「バラバラ
死体にするのは無理」ということはない。この本では理由として、「バラバラにすれば血液が飛び散った
はずであり、それをふき取ったり洗い流したりするのは時間的に無理。列車が貯蔵している水の量でも
洗い流せないし、ルミノール反応をやれば明らかだ」と挙げていた。
その前に原作の方から先に突っ込んでおく。手元にコミックスがないのでちょっと正確なページはわから
ないが、金田一がトリック明かしをしていく過程で高遠が団長を殴り倒すシーンがあったはずだ。その
枠外に「ここではまだ殺してない」「きっとこのあと刺殺したんだ」という記述があったように思う。ところが、
刺殺したのではこのトリックは成立しなくなってしまう。ので、作者も断定していないことからも「絞殺」と
いう形にさせていただきたい。

そしてトリックの方に注目してみる。絞殺した後は当然死んでいるので全身の血液の循環が止まる。
冬場、灯油をストーブに入れる時を考えていただきたい。手動のポンプであればどれだけそのままにして
おいたところで灯油は勝手にストーブの中へ入っていかないはずである。(もしかして今時こんなストーブ
はなかったりするのだろうか?)
それと同じで、血液の循環が止まってしまえば遺体を切断しても血はほとんど出ない。だから、ビニール
シートでも敷いていたならことが済んだ後それを窓から捨ててしまえば、ルミノール反応も出ないのである。
あらかじめ下調べ・シミュレートくらいはしていただろうから、手先の器用な高遠には造作もないことだろう。
こんな手の込んだトリックを使う人間が、ぶっつけ本番だったとは考えにくい。
(ただ、これ以上の詳細な記載は万が一模倣犯が出る可能性もあるのでやめておく…)
意外と知られていないが、絞殺死体を切断しても血は出ないのである。だから、刺殺ではないと自分は
考える。ちなみに刺殺したのであれば考えるまでもなくそこら中血の海である。とても列車搭載の水の
量では洗い流せない。

次に死体の持ち運び。これは、単に記述がなかっただけで、胴体から大腿も切り離しているとみるべき
だろう。
もちろん切り離さないで腱などを切断し、折り曲げることも可能。旅行鞄には入るし、日頃重いマジック
道具を持ち運んでいた高遠なら、持ち運べないことはない。だから、謎本で突っ込まれているように
「死体を持ち運べない」ということはありえない。

ということで以上反論終わり。意地悪く突っ込むのならもう少し死体の状態を勉強した方がいいと思う。
普段はたかが話のネタ本と笑って見過ごすのだが、これはあまりにも無知な指摘だったので、あえて
意地悪くやり返してみた。
ただし、「団長の首を窓から出したのなら血痕や毛髪が残っているはずで、それは調べられればすぐに
分かってしまう」という指摘については同感である。

そして、これまでのことをまとめてみるに、高遠はマネージャーと犯罪者の二重生活を送っていた節が
ある。
前にもそんな被害者がいたが、母親の死の真相を知ってから実行まで約2〜3年。それだけあれば、
犯罪の知識を身につけその方面の世界に踏み込むのもあり得ることだろう。
幸か不幸かイタリアは警察よりもマフィアが治安を保っているような都市である。だとすれば、修行時代の
ツテにはその辺と通じた人間もいただろう。
つまり計画を立てた後何度かイタリアに渡り、接触を図っていた可能性もある。以降出てくる完璧なまでの
変装術、ナイフの使い方、犯罪の知識…すべて学んだのかもしれない。幻想魔術団といえど毎日ショーを
行っていたわけではないだろうから、シーズンオフの時は長い休みに入るはずだ。とすれば、かなりの
時間が自由に使える状態となる。

というわけで、自分としては高遠遙一は自分の復讐劇に必要な知識をマネージャー時代に学んだ、と
思っているのだがどうだろうか。恐らく無駄を避けるため最低限のことしか使用しなかったように思う
のだが。(ぶっちゃけて言えば、復讐劇に関係ないところは出し惜しみしていた、ということ)
はなからどうでもいい「都津根毬夫」も存在が確認できればいいのであって、わざわざ手間をかけて
変装する必要もないだろうし(何より急いで往復しなければならないのだから変装は簡単の方がいい)、
金田一の殺害をもくろんだことに関しても手抜きが認められる。確実に殺す方法などいくらでもあった
のだから。

この後、速水玲香誘拐事件で再び登場するが、ここから犯罪芸術家としての頭角を現し始める。それは
単に逃亡中にいろいろなことを学んだのではなく、復讐を終え持っていた知識を使い始めたというところ
ではないかと思う。再登場までどれくらいの期間が空いているのかは知らないが、逃亡犯では何かと動き
づらい。その点予めある程度の知識とツテを持っていれば、余裕綽々で逃亡生活をしていただろう。
何より、高遠の性格を考えれば何の計略もなしに逃亡するとは考えにくい。

以上魔術列車事件を考察してみた。


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