多分花鳥風月金田一、コナン的読み物ページ小説置き場オリジナル小説目次→総理大臣、ただいま仮免中!3-3


「とにかく、早急に対策本部を設置する必要があります。向かいの応接室が使えるか、
今田さんに状況を確認して来ます。本部を作るには、ここは少し狭いですからね」
「はあ」
 圭は首をひねったのだが、白根はそれをうなずいたと勘違いして、吉田らを引き連れて
部屋を出て行った。
 ぽつーんと執務室に取り残され――いや違った。
「ちょっと、行かないの?」
 美奈子が半開きのドアから覗いていた。
「あれ? 僕も行くんですか?」
「当たり前でしょ。官邸内の対策本部筆頭は君でしょうが」
「あ、そうなんですか」
 急いで立ち上がる。と、美奈子が入ってきた。隣の秘書室を伺った後、
「ねぇ、護身術とか習ってる?」
「ごしんじゅつって何ですか?」
「呆れた! 知らないの?」
「……」
 ご神仏か何かだろうか、と思ったのだが違うようだ。
「仕方ないわね」
 美奈子は後ろに回していた手を差し出した。黒いものが握られている。
「絶対内緒だからね!」
 美奈子が顔を近づけてきて、唇に人差し指をあてた。その爪には真っ赤なマニキュアが
塗られている。
「馬鹿、ちゃんとこっち見なさい」
 頭を押さえられて下を向かされ、美奈子の手にあるものに目がいった。
「持ってなさい。君の頭じゃ理解できないかも知れないけど、これから大変なことが
起きるかも知れないの。いつどこで何に遭遇するか分からないから、自分の身は自分で
守れるようにしておくことね」
 持ってみると結構ズシリときた。
「本物?」
「ちょっと! こっち向けないでよ! 危ないでしょ!」
 また怒られてしまった。
 美奈子の言うままに、おっかなびっくり内ポケットに入れてみた。
「スーツが大きめだから全然目立たないわね」
 満足したように美奈子はうなずくと、髪を掻き上げて廊下に続くドアを出ていった。
ぺろりと舌を出してほくそ笑んだ顔は、圭からはまったく見えなかった。


 テンポの良いノック音に振り向くと、ちょうどドアを開けて男が入ってきたところだった。
案内して来た今田が一礼して出て行った。大介は、椅子を並べていた手を止めて歩み寄った。
「佐々木さん、お久しぶりです」
「ご無沙汰しています」
 大介の差し出した手を握り締めて佐々木が笑った。普段はヤクザさえ道を空けて
通るほど気迫に満ちた男だが、笑うとみじんも感じさせない好々爺になる。
「急に呼び付けて申し訳ありません。この渋滞をおいでになるのは大変だったでしょう」
「何、自転車は歩道を走れますから」
 けろりとして言う。
 佐々木は長年内閣安全保障室長を務め、数年前退官した男だ。もともと警察庁の人間
だったのだが、数々の歴史を揺るがした大事件の陣頭指揮を務め、解決に導き、警察官とは
思えない発想の柔軟さから基山がその実力をかって引き抜いたのだという。今年確か
七十になるはずだが、外見は五十代と言っても立派に通用する。
「……というわけで、総理のサポートをお願い出来ますか。非常事態の経験が私達では
少なすぎるのです」
 手早く説明を終えて、大介は用件を切り出した。
「……」
 あごに手をあて、佐々木はテーブルに並べられた、都内の被害報告書類を眺めている。
 そうしている間にも秘書室のFAXは数字の並んだ紙を排出し続けていることだろう。
警視庁からの報告書を。
「分かりました。ただ、私に指示系統の権限をある程度与えてもらわないと」
「それは大丈夫です。お願いします」
 佐々木は頭を下げる大介を、手を挙げて制した。
「感謝するのはすべての事態が収拾してからにして下さい」
 数時間後。
 佐々木と警視庁の提携による的確な指示の下、警察が都内の交通規制に乗り出した。
都内交通網の内、九十%警官配備の連絡を受けて、交通管制センターは一時的な
システム停止を決定した。
 ただちに竹本官房長官による緊急会見が開かれ、都民へパニックを起こさないよう
呼びかけが行われた。しかし突然の事態に混乱が収まるはずもなく、官邸を始め官公庁の
電話は全国からの問い合わせで、沈黙することはなかった。
 佐々木の提案により車両運行が規制され、停止した電車の代わりとして都バスを
走らせたが、都内で混乱に巻きこまれた車両は多く、容易なことではなかった。
 送られて来たFAXを見つめながらふと、大介は何か嫌な予感が胸をかすめるのに
気づいて宙を仰いだ。
「小野田さん?」
 今田の不審げな声に、それを打ち消すように首を振り、廊下へ出ると会議室のドアを開けた。
「官邸内及び総理府のシステム復興はどうなっていますか」
 吉田が立ち上がり、残念そうに顔をしかめてみせた。
「庁の方を優先して見てもらっていますが、バックアップもすべてやられているとのことで、
使い物になりません。このままでは国会どころか明日のスケジュールさえままなりませんよ」
「そうですか」
 大介は見上げる圭を一瞥した後隣に立ち、
「先ほど警視庁からFAXが届きました。都内の交通網は完全にダウン。交通規制により
事故発生時などの緊急車両出動は可能ですが、現状把握にタイムラグがあり、渋滞は
解消されていません。この状態が長く続けば暴動が発生する恐れありとのことです」
「もう一度記者会見を行った方がいいですね」
「ヘリからの呼びかけも要請しましょう」
 承知しました、とうなずいて竹本が立ち上がる。
 ドアが閉まるのを見届けて、
「総理。各庁から至急に代理のパソコンを用意してほしいとの要請が入っています」
「それって、用意できるの?」
 きょとんと圭が聞き返してきた。
「一時的な借用でしたら可能かと。ただし、あなたの承認が必要です。責任の所在を
はっきりさせないと、貸してもらえないでしょう」
「えーと、分かりました」
「後で企業提出用の承諾書を持って来ます」
 唐突に何故イライラしているのかわかった。
 緊急時、いちいち説明を一からしなくても通じるあうんの呼吸を、この少年一人乱して
いるからだ。しかも彼が承知しなくては人ひとり動かせない。
 分かっていたとはいえ、理解することと納得することは別のことなのだ。
「じゃあ、お願いします」
 そう言って圭がゆっくり立ち上がった。行動が理解出来ず大介はそれを見守った。
彼はゆっくり一同を見回すと、
「僕、こういう大変な時はどう動いていいか分かりません。でも、さっきから聞いて
いると僕の責任問題がどうとか言ってます。そこで」
 ふと白根が身を乗り出したのが見えた。
「皆さんはえっと……か、かんりょーでしたっけ?」
「官僚、ですか」
 すぐに訂正してやった。何を言いたいのか理解出来たからだ。
「官僚さんが後で何を言うか、なんて気にしないで下さい。とりあえず、支給される
パソコンを配るの、手伝ってあげて下さい。今動けるのは僕たちしかいないと思うんで」
「ラジャー!」
 飛び上がるようにして白根が敬礼した。官公庁を動かす官僚といういまいましい存在に
腹を立てながらも、立場上従うしかなかった彼にはまさに、突撃の号令を掛けられたにも
等しかったのだろう。ただそれも、あくまでも自分の行動しか頭にないだろうが。
「ま、責任とらないで済むんならいくらでもやりますけどね。後でやっぱり私達が勝手に
したこと、なんてのはナシですよ、総理」
 最後の「総理」をことさら強調して中野が立ち上がった。圭は多分言葉の意味を理解
していないだろう、黙ってうなずいていた。
 最悪、総辞職だな……。
 表には出さないが、竹本を除いて内閣の人間は圭を本当に助ける気はない。一ケ月
すれば支持率の問題上、自動的に総辞職することになると分かっているから、敢えて
適当に仕事をこなしているだけだ。それがこんな事態になれば余計に、総辞職の時期を
早める方向へ動こうとするだろう。
 ただそれは今までの総理が立場を慮って出来なかった、最短距離を疾走して災害対策を
打ち立てるということにもなる。うまくいけば支持率上昇につながる可能性がなくもない。 
 圭はそこまで見越して発言したわけでは決してないだろうが。
 彼が見回す中、白根達は次々に立ち上がって部屋を出て行った。圭と大介二人が
残された形になる。
 目の前に置かれた電話が鳴り出した。
「小野田さん、新井警察庁長官からお電話が。転送します」
 そのまま受話器を持っていると、切り替わる音がした。
「――小野田です」
「大変なことになりました」
 電話の向こうからは騒がしく飛び交う声が聞こえて来た。それだけの人間がいると
いうことは、国家公安委員会との会議中なのだろうか。しかし切迫した声は奇妙な
緊張感をはらんでいた。
「……霞ヶ関ビルを始めとするコンピュータにもハッカーが侵入し、目下殆どの官公庁で
システムが外部からのアクセスを受け付けなくなったということです。国内の主だった
機関のみならず、諸外国からも日本政府から不正アクセスを受けたとして問い合わせが
殺到しています。中に独裁政権国家も含まれていたようで、下手をすると国際問題
どころか戦争が勃発します!」
 驚きのあまり、言葉が声にならなかった。
「至急臨時閣議を要請された方が。以前より問題になっていたホームページ書き換えの
件と関係ありと見て、総理の責任を追及する声が多発しています」
「……分かりました」
 受話器を置いて顔を上げると、今田が不安げな表情で立っていた。握り締めた手の
関節が白くなっている。
「何かあったの?」
 圭は二人を見比べて首をかしげている。
「……中央官庁ほとんどのコンピュータが何者かに乗っ取られました」
 今田がアッと叫んで口に手をあてた。見る見るうちに血の気が引いていく。
「それって……どういうこと」
 少しは何か感じ取ったのだろう。圭の顔からものほほんとした表情が消えた。
 大介はテーブルに手をついて力の抜けそうな体を支えながら目の前の少年を見据えた。
 様々な言葉が頭の中をよぎっていく。それが口から出るのを嫌がるように喉にはりつき、
言葉にならない。
「……日本が、誰かの支配下に置かれたということです」
 遠い場所で声が聞こえた。それが自分の声だと認識するのにしばらくかかった。
「支配」
 圭はそうつぶやいただけだった。無理もない。戦いなど日本人の美学に反するとして
育てられた今の世代は、それどころかエゴを個の自立などと勘違いしている。もはや
圭にとって現状況は理解を遥かに越えたものだろう。
「こんなことって簡単にできるんですか」
「そんなわけないでしょう。いずれも外部に開かれているコンピュータはごく一部だった。
メインコンピュータとはもちろん独立していたし、セキュリティが何重にもあったはず。
それがどうして、各官庁の心臓部にまでハッキングを仕掛けられたのか」
「ホームページ書き換えがデモンストレーションだったのでは?」
 今田が言った。顔色は悪いままだが、緊急事態に素早く対応できなければ、官邸
事務所をまとめあげていくことなど出来ない。
「書き換えればそれを修正するために、内部から回路が開かれます。つまり、書き換え
ページ自体がコンピュータウィルスだったとしたら?」
「……そんな高性能のウィルスを作成出来る人間がいるのでしょうか……」
 今田は困ったように笑うと、
「現にこんなことになった以上、いないとも言い切れないでしょう。でもそれより何か手を
打たなくては」
「えっと、すみません」
 椅子に座っていた圭が手を挙げた。
 別に誰も、挙手しなければ発言してはならないと言ってないのに。
「僕思うんですけど、各省の大臣さんに集まってもらって、対策の案を出してもらうというのは? 
三人寄ればえーと、もんじゃ焼き、でしたっけ? 何かいい意見が出るかも知れないし。
電話でしてもらってもいいんですけど、いちいちいれてもらってたら電話取る人大変だと
思うんです」
 ハッと大介は電話を取り上げた。記憶をたどるまでもなく指が暗記している番号を
プッシュする。今田があっけにとられているのが横目に見えた。
「今田さん、NTTに連絡して緊急電話の設置を。今から一時間以内に二十本ほど。
それより多くても構いません。――ああ、小野田です」
 電話に応じながら、「交通がマヒしているので警官を行かせて、なるべく徒歩で来て
もらって下さい。出せるようならヘリで」と付け加えた。うなずいて今田が秘書室に向かう。 
 二月二十二日、午後十時二十分。
 窓の外は真っ暗闇だった。遠くで警官の振る誘導灯が小刻みに揺れていた。


 緊急に対策本部とした会議室は、二十人もの人間で埋め尽くされていた。報告する者以外は
目の前に設置された電話で、それぞれの省庁事務次官から入る連絡を受けている。
 外では押し寄せたマスコミを締め出そうとSP達がやっきになり、小競り合いが続いていた。
隣の秘書室では今田達が電話対応に追われているだろう。
 事態はもはや収拾のつかない状況に発展していた。二度に渡って行った記者会見でも、
ハッキングを放置していた圭への非難が飛びかい、マスコミを通じて行った呼びかけも
都民からの苦情電話をいたずらに増やすばかりで完全に裏目に出た。各機関からも問い
合わせが相次ぎ、竹本らが説明にあたったが誰も彼もが圭の責任を追及するばかりだった。
「午後十一時現在の報告によると、都内での交通事故はこれまでで三万件以上、電車の
ストップによる暴動鎮圧数は約百二十回、金融関係のATM非常停止が四千七百件、
その他様々なトラブルが報告されています」
 吉田が報告書を読み終えてゆっくりした動作で席に着いた。次から次に発生する問題に、
緊張するのも疲れたのだろう。
「警視庁でも目下捜査中とのことですが、何か進展はあったのでしょうか」
 大介の言葉にあわてて三原警視総監が立ち上がった。
「今のところ、進展なしとのことです。何分、コンピュータのダウンにより捜査がある程度
限られておりますので。支給されたパソコンをつなぎ、プログラムを解析中です」
 筒井運輸大臣が手を挙げた。
「先ほど連絡が入りました。通信用の巨大衛星《サクラ》のプログラムが書き換えられ、
予備エネルギー使用による墜落の危険性ありとのことです。爆破命令も受け付けません」
「予想地点は」
 聞き返すと筒井は書類を何度も確かめてから、
「……I県M市です」
「馬鹿な!」
 次々と大臣達から驚きの声が上がる。M市は日本でも有数の原子力発電所を備えた
都市である。無論そこが直撃されるとなれば、I県ばかりでなく隣県にも避難勧告を出さねば
ならない。今の混乱など比較にならないパニックになるだろう。
 電話のやり取りで聞き損なった者も、周囲から事情を飲み込み、あわてて向こうに
伝えているようだ。
「一体、誰が何の目的で……」
 大介の隣で白根がつぶやいた。
「あの、僕に出来ることって何かありますか」
 反対側からヒソヒソとつぶやく声が聞こえた。圭が申し訳無さそうな顔でこちらを
見ている。
「申し訳ないですが、今のところはおとなしく承諾のサインだけしておいて下さい」
 圭の右隣りに座っていた竹本が同じようにささやいた。
「はい……」
 しょぼんと圭がうなずく。
 決して悪い子ではないのだ。一生懸命仕事をしようとしてきたのは、この一週間
そばについてきた自分がよく知っているし、時として腹立たしくなる発言も政治に
無知なところに起因することは分かっている。だが、こんな緊急事態ではどうしても
つまはじきにせざるを得ない。
「三原君! 警視庁は何をしているのかね!」
 テーブルの端に座っている川内がツバを飛ばしながら怒鳴った。外務大臣を務める
彼は、先ほど外国政府からの突き上げをくらい、日本のコンピュータセキュリティの
甘さをなじられたのだと報告してきた。
「も、申し訳……」
「総理!」
 ドアが勢いよく開いて今田が飛び込んで来た。反動で壁にぶつかった扉が音を
立てるのへ見向きもしない。
 一同が一斉に自分の方を見るのにうなずいてから圭を見、
「交通管制センターから報告があり、都内全システムが突然回復したとのことです! 
コンピュータも復活しました!」
 そこここで安堵する声が聞こえた。何事かと腰を浮かせかけていた大介もすとんと
椅子に座り込んだ。
「こちらもです!」
 受話器を押さえて筒井が叫んだ。「完全回復、衛星は墜落の可能性なしとのことです」
 それを合図に電話が合唱するかのように一斉に鳴りだし、大臣らが矢継ぎ早に省庁の
機能回復を告げた。肩をたたきあって喜ぶ者もいる。
「何なんだ、この騒ぎは……」
「あの、小野田さん」
 おずおずと圭が声を掛けた。手に持ったボールペンをいじり回しながら、
「僕、思うんですけど……」
「何ですか」
 疲れた表情を出すまいと努力しながら顔を向けた。他の人間は連絡をつけることに
てんやわんやで、彼らに注目する者はいない。
「あの、今のうちにお店に呼びかけて非常用の食料とか物をそろえてもらえませんか。
えーと、大地震が起きた場合のような、何て言うのか知らないけど、そういうのを
やってもらえませんか」
「非常事態用の体勢を整えろと?」
「おいおい、事態は収拾しかけてますよ。今そんなことをすれば、また理由を説明しなければ
ならんでしょう。いらん騒ぎはごめんです」
 出て行きかけていた川内が聞きとがめたらしく、口を出してきた。
 大介はそれに答えず顔を上げた。談笑しながら出て行きかけていた、猪口大蔵大臣と
山元農林水産大臣を呼び止める。
「何でまたそんなことを……」
「いや、私からもお願いしますよ」
 丁度警視庁から戻って来たらしい佐々木が割って入った。「また同じようなことが起こらん
という保証もないでしょう。転ばぬ先の何とやらです」
「承知しました」
 明らかに「納得出来ない」という表情を張り付けたまま二人は部屋を後にした。
「初めまして総理。佐々木と申します」
 思い出したように佐々木が圭を振り返り、手を差し出した。弾かれたように圭も立ち
上がると手を差し出す。弾みにボールペンが落下して床を転がった。
「あ、ぼ、僕滝本圭です! ありがとうございました」
「いや何、楽観視する大臣達に少し腹が立っただけです」
 それだけ言って佐々木は大介に「また明日も顔を出します」と頭を下げて出て行った。
その一言を言いにわざわざ戻って来たのだろう。武士道を行動原理とする彼らしい。
「僕……役に立たなくてすみません」
 見送る大介の後ろから声がした。
「いや、とんでもありません」
 竹本が微笑んでみせる。「奇抜なアイディアを幾つも出されたではありませんか」
 それが裏付けのない慰めでしかないことは大介もよく理解していた。
 このまま事態が収拾していけば、民間との提携が本当に必要であったか否か――混乱
解消にどれだけ役立ったかよりも、とにかく彼らは反発の糸口をつかみたいだけなのだ――
必ず問われるであろうし、何よりも川内が苛立っていたようにセキュリティ対策の甘さも
浮上してくる。
 例え誰が総理であろうとも避けられなかったこととはいえ、内閣不信任案を提出させるに
十分な理由付けにはなる。
「マスコミが、記者会見はまだかって言ってるけど」
 大下が顔を覗かせた。余程もめたのだろう、しわくちゃにされたスーツを直す気力も
ないらしい。
「午前三時より行うと伝えて下さい。ご苦労様」
 竹本の言葉にうなずいて大下はきびすを返した。
「では私は会見の準備をします。総理は不測の事態に備えてお休み下さい」
 竹本は疲れた顔ひとつ見せず、吉田と白根を促して出ていった。心の中で感謝の
言葉をつぶやいて、大介は頭を下げた。
 基山の考えを信じ、自分の孫とそう違わないような総理のために表に立っている。
返しきれないほどの借りだった。


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