多分花鳥風月→金田一、コナン的読み物ページ→小説置き場→オリジナル小説目次→テロリストたち
!ご注意! この小説は不快感を生じさせる表現を含んでいます。 ご注意下さい。 |
「A国に続いて、わが国に向けてもテロの対象である、という宣告がなされました。これを
受けて政府では至急に対策本部を設置し、国内テロの警戒に当たっています」
テロリストが開設していたというウェブサイトの画面を映しながら、アナウンサーがニュースを
読み上げていた。
オフィスビルが立ち並ぶその一角。応接用のソファがいくつか置かれ、全面ガラス張りの
窓からは柔らかい日光が差し込んでいる。
床に敷かれた絨毯は歩けばその靴を優しく包み、雲の上を歩いているような気分にさせた。
「では、計画の最終確認をする」
ブランド物のスーツに身を固めた男が低い声でそう言った。彫りが深い顔に青い虹彩の瞳は、
この国の人間でないことを如実に物語っている。
室内には彼の他に数十名の人間がいた。同じようなスーツを着てはいるが、国籍は
バラバラのようだった。
「ボス、いよいよですね」
一人がそう言った。
「そうだ。お前達には命を捨てる覚悟でやって欲しい。成功しないと意味がないのだからな」
「勿論です」
「もとより覚悟の上です」
あちらこちらで賛同の声が上がる。
ボスは満足したようにうなずいて、話し始めた。
パトカーが街を巡回し、駅からはゴミ箱が撤去された。街角には警察官が立ち、テレビでは
連日テロに対する情報が報道された。
ある地方で連続通り魔事件が発生し、住民達は震え上がった。
毎週火曜日と金曜日に現れるその通り魔は後ろから来て被害者を殴り倒し、すばやく
立ち去っていくという手口ではあったが、襲われるのは非力な女性とあってたちまち人は
争って防犯ブザーを買い求め、日が暮れると外に出ないよう警戒した。
数週間ののちにこの通り魔は逮捕されたが、捕まえてみればまだ中学生になったばかりの
少年で国民に衝撃を与えたばかりでなく、少年犯罪者の心理とは、などとしばらくニュースや
紙面をにぎわせた。
それから程なく、さらに惨い事件が起きた。
小学生が幼稚園児を刃物で切り刻むという、残忍な事件だった。しかもそれは小学生の親も
関わっていたとあって、教育関係者がああでもない、こうでもないと教育論を振りかざした。
インターネット上のあちらこちらの掲示板では、この小学生一家に対する情報を求める
書きこみ、この家族ではないかという書きこみが見られ、警察や法務局が慌てて管理人に
注意するという一幕もあった。
秋になって問題になったのは、外国人窃盗団だった。荒々しく窓ガラスなどを叩き割って侵入し、
家人と出会えば平気でこれを傷つけ、金品を奪って逃げた。
各地で発生しているとあって警察はこの逮捕に全力を注ぎ、銃撃戦の末双方に犠牲者を
出しつつもいくつかのグループを逮捕したが、未だ半分以上のグループが逃走したままだと
言われている。
中にはほのぼのとした話題もあった。
観光に来ていたある大富豪がその地域の人のもてなしに大変感謝し、これからも観光客を
もてなして欲しいと大金を寄付した。それは道路整備に使われ、観光バスなどが乗り入れ
やすいように改良された。
街にはクリスマスソングが流れ、人々は笑顔でイルミネーションの光を見上げながら通り
過ぎて行った。
その光景をはるか上空から見下ろしている男がいた。その一室以外の部屋は真っ暗で、
外から見ればまるでその部屋だけが浮いているような錯覚にとらわれた。
「ボス、準備が整いました」
ドアを開けて入ってきた男が言った。相変わらずのスーツ姿だ。
「でははじめるとするか」
煙草をもみ消し、ボスは窓に背を向けて男に近づいた。
男がかかえるようにして両手に乗せている無線機を取り上げると、そのスイッチを入れて
ボスは言った。
「作戦開始だ」
数時間後、この国の心臓とも言える機関にミサイルが発射された。
「それにしても、警戒せよと言われていながら、日々のニュースでそれを忘れるとは、おめでたい
国だな」
「ボスの計画を聞いた時はまさかと思いましたが、その通りでしたね」
「混乱に生じて同志達も脱獄してくるだろう。この国の刑務所など、我々からすれば鍵のかかって
いない牢屋のようなものだからな」
大きなニュースを一刻も早く記憶から消し去りたければ、それより大きな事件を起こせば良い。
<了>
(同人誌「黒」収録作品)
多分花鳥風月→金田一、コナン的読み物ページ→小説置き場→オリジナル小説目次→テロリストたち