多分花鳥風月金田一、コナン的読み物ページ小説置き場金田一vsコナン「透明な殺意」→プロローグ1


プロローグ

   地方新聞に「祭り中急性アルコール中毒・女性一名死亡」という小さな事件が
載った。おりしも大手菓子メーカーへの脅迫・青酸入り菓子ばら撒きが新聞を
にぎわせていた当時、誰もそんな"よくある"事件など新聞を読み終えるころには
忘れてしまっていた。


 ちはやふる、玉の御すだれ巻き上げて、神樂の声をきくぞうれしき


   ボタンを押して窓ガラスを下げると、東京では嗅げなくなった潮の香りが鼻を
かすめた。しばらく匂ってから、寒くなってきたのであわてて窓を閉める。
「オイ金田一、窓全開にすなや! 後ろの方めっちゃ寒いねんで!」
   やっぱり思った通り、後ろから悪態をつく声が聞こえてきた。別に仲が悪いわけ
ではなく、長旅の疲れからくるイライラのようなものである。
「っせーな! わざとやったわけじゃねーよ!」
 そう言い返すと、隣りでわざとらしくため息をつく音。
「君達、私の代わりに運転できないのですから、せめて静かにしているのがマナー
というものでしょう」
 運転手はバックミラーで後方が静かになったのを確認し、それから、大あくびを
したこちらにもちらりと一瞥をくれた。
「明智さん、まだ着かねーの?」
 それに視線を返して道路地図を取り出した。
「あと大体十分で桜井署に到着、ってとこかな?」
 先ほどのやりとりにも沈黙していた、もう一人の小さな同乗者が後ろから地図を
覗き込んだ。しかし、この四人を同一のカテゴリーに納めようとすると、保護者とその
子供にするにしては、彼一人だけ飛びぬけて年齢が釣り合わない。彼がまだ小学生
の外見をしているからである。それなのに、彼らと対等のように見える。
「コナン君の読み通りですよ」
 明智が微笑んだ。
 さて、これらの会話からして明智健悟の車に同乗しているのはそれぞれ、金田一一、
江戸川コナン、服部平次となりそうである。つまり「名探偵」というカテゴリー内に矛盾
なく収まることになるのだが、彼らがどうして集まることになり、どこに向かおうとしている
のか、その説明には時を少しさかのぼる必要がある。


「……島根県へ? 何でまた?」
 書きかけの書類から顔を上げて剣持は、何やら筆文字で書かれた手紙を手にしている
この若い上司をしげしげと眺めた。
「いえ、はっきりと確証があるわけではないのですが、どうも事件の可能性があるので…」
「そんなの島根県警に任せておけばいいじゃないですか」
「それが、私をご指名なんですよ」
 そう言って髪をかきあげると、明智は手に持っていた手紙を渡してみせた。
「ち……ちはや……、ふる荒……ぶるものを……? 何ですか、これ?」
「どうも和歌らしいのですが、出典が分からなくてね。私に送ってきた理由も知りたいですし、
ちょっと行ってみようというわけですよ」
「ちょっと、ねぇ……」
 明智の言葉に剣持は天井を仰いだ。どうもこの優れた頭脳を持つ青年――警視総監曰く、
桜田門設立以来の逸材だという――は時々、キャリア組であるという立場を忘れて他人の
謎まで解きたがるクセがある。自分は管轄内で起こる事件で手いっぱいだというのに。先日
の警察庁の発表でも、全国の出動件数は警視庁が群を抜いてトップであった。不名誉な一番
である。
「それにこのご指名があと三人もいるとあっては、放っておけないですからね」
 その言葉を待っていたかのように、捜査一課のいい加減くたびれた古めかしいドアが音を
立てて開いた。
「金田一!」
「よ、オッサン久しぶりっ」
 一は握手をすべく手を差し出したのだろうが、剣持はそれを無視してツカツカと彼に歩み寄り、
「あでででっ! 何すんだよオッサン!」
「お前学校さぼりやがったな!」
――まるで八つ当たりとしか思えないヘッドロックをかましたのだった。


「オッサンはいつも論点がずれてるんだよなー」
 痛む首をさすりながら一がぼやく。
「君のことを我が子のように気にかけているからでしょう」
 ゆっくりと車を停車させると、サイドブレーキを引いて明智はドアを開けた。
「あんたが警視庁きってのエリート警視、明智さんか」
 既に門の前で待っていたらしい人物が声をかけてきた。だが、言葉づかいと反してその外見は
どう見ても、小学校低学年の域を出ない。
「あんだぁ!? こんなガキがホントに名探偵? 明智さん、間違えてんじゃねーの?」
「……金田一一、私立不動高校二年。偉大なる名探偵金田一耕助の孫であり、今までに数々の
謎を解き明かす。ただし、学校の成績にはその頭脳はあまり反映されておらず、卒業どころか
進級すら危ぶまれている……」
 そこまで一気にまくしたてると、蝶ネクタイをつけた小さな探偵はニヤリと笑ってみせた。
「工藤君――いえ、今は江戸川コナン君でしたね。一応改めて紹介します。私は明智健悟。
警視庁捜査一課に所属しています。こちらは金田一一君、よろしく」
 コナンの言葉に「うるせーやいっ」と叫ぶ一を押しのけて、明智が右手を差し出した。
 軽く握手を交わした後、コナンは二人を自宅へ招き入れた。応接間の電灯をつけ、ソファに腰を
下ろすのを待ってポケットから手紙を取り出す。
「やはり、私と金田一君のところにきたものと同じ文面ですね」
 並べて見比べた後、明智は丁寧に折りたたんで各々に返した。
「服部のもFAXで送ってもらったけど、やっぱり同じ文面だった」
「服部って……?」
 一の問いに明智とコナンは顔を見合わせた後、長いため息をついた。
「金田一君、キミも少しは新聞を読んだ方がいいですよ。今、事件を速やかに解決へ導くことで
有名になっている高校生探偵が二人いるのです」
「この俺、工藤新一こと東の工藤に、服部平次こと西の服部ってな。もっとも、俺の方は現在行方
不明中ってことになってるけど」
「……オメー、どう見てもガキにしか見えねーぜ?」
 怪しむ一に、苦笑して明智が説明を始めた。
 旺盛な好奇心の為に、うかつに首を突っ込んだ事件で薬を飲まされ小学生になってしまったこと。
 その薬に関わる組織は彼を死んだものと思っていることから、父親が探偵をしている友人宅に
居候することにしたこと。
 そこでは江戸川コナンと名乗り、実は無能な探偵の代わりに事件を解決しながら手がかりを
つかもうとしていること。
 この手紙は先日届いたものだが、意図する所がさっぱり分からずインターネットで検索中に、
同じく情報を求めていた明智と知り合ったこと。
 工藤新一の活躍を知っている明智に最初はとぼけていたが、結局は情報交換の為口外しない
ことを前提に打ち明けたこと。
「んで、あと一人オメーの理解者でもある服部のとこへも届いていた、と」
「ま、そういうことだな。これから長くなりそうだ。ひとつヨロシクな」
「ああ」
 ところでさ、と一は声のトーンを落とした。「明智サン、初めて話した時はイヤミな奴っって思わ
なかった?」
 コナンがプッと吹き出した。「ああ、何だこいつは!って思ったぜ。俺の知ってる泥棒にも同じ
ようなキザヤローがいるからな、思わずそいつが騙ってんのかと思っちまったぜ!」
 後ろで何度か咳払いの音が聞こえた。
「聞こえてますよ、君達……!」
 明智の冷笑は、部屋の温度を一気に氷点下まで下げたのだった。



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