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「おー工藤、元気にしとったかー? そっちが明智さんにキンダニやなー?」
「一だ! 金田一一!」
「わかっとるがなー! 一応ボケは基本やからなー」
 謎めいた手紙のせいとはいえ、滅多に会えない友人と再会を果たした服部は本当に嬉しそう
だった。
 大阪府警本部長である、服部の父に明智が挨拶をしている間に、持ってきた荷物を後部
トランクへ放り込む。一がその様子を見て不思議そうに声をかけた。
「何でそんなに荷物持ってるんだ?」
「なんやお前、下調べもしとらんのか? オレらが行こうとしとるトコは、ド田舎も田舎、周りに
コンビニどころか店もあるかどうかっちゅートコやで。手紙の差出人にすんなり会えるかも分からん
よーなトコで、腹すかして路頭に迷いとおないねん」
 服部は最後のバッグを放り込むとトランクを閉めた。
「ま、保存の利くものばっかりやけどな」
 実は東京から島根への移動は、車ではかなりの強行軍となってしまうため、ここ大阪で一泊する
ことになっているのである。
 服部の家へ案内されて腰を落ち着けると、四人はさっそく会議に入った。
「やっぱ服部のも同じだな」
「せやな」
「でも、コピーしたものではなく手書きで一枚ずつ書かれていますね」
「ま、ド田舎ならコピー機なんてものもねーだろうけどよ」
 電灯で透かして、それぞれの手紙が一致しないのを確かめて一は手紙をテーブルの上に
戻した。差出人は田川政子となっている。住所は島根県那賀郡湊町。コナン達が調べた所に
よると山口県寄りの島根県西部、その山中に位置するところらしい。服部がド田舎、と表現するのも
無理らしからぬ所である。


 千早振荒振者を拂はんと出でたちませる神ぞ貴とき
 目に見えぬ神の心の神事は畏きものぞ凡にな思ひそ
 世の中の善きも惡しきもことごとに神の心の為業にぞある
 よき人を世に苦しむる禍つ神の心のすべもすべなさ
 皇神の愛ぐく思ほす人草ぞ世の中の人惡くすなめ
 千早ふる神の心を和めすは八十の禍事なにとのがれん
 世の中を安からしめんと千早ふる荒振者をやらひましける
 八雲立つ出雲の神をいかに思ふ建須佐之男を人は知らずや



「意味は大体分かるのですが」
明智が眼鏡を直した。「これがなぜ送られてきたのか」
「この紙が石州和紙ってことも分かったぜ。つまり、島根県からの手紙っていうのは本当だな」
コナンがいろいろと分析結果をまとめたらしい紙を取り出した。「明智さんを通じて科捜研に依頼
した所、その繊維質から湊町で作られる石州和紙の中の、石州三椏紙というものと判明した。
石州和紙の中でも、書道用紙としてよく使用されるらしい」
 服部は自分の机からメモを取ってきてテーブルに置くと、
「学校で古典の先生に聞いてみたんやけどな、この和歌は『玉鉾百首』っちゅードマイナーな
歌集に載っとるらしいで。んで、詠まれてる神サンの名前からして出雲神話に間違いない、
ゆーとったわ」
「……おめーら、もうそんなに調べてんのかよ」
 一人会話に入れない一は、非常に不服である。
「当たり前だろ! オメーこそ何もやってねーのか?」
 呆れたように――まあ実際本当に呆れていたのだろうが――コナンは言った。
「まあまあ。彼は直感でトリックを見抜くことが得意なもので、私達のように情報から理論立てて
推理を進めるのは苦手なんですよ」
 明智の言葉はフォローしているのか追い討ちをかけているのかわからない。
「悪かったな、どーせ万年追試組だよっっ」
 ふくれた一に、三人が苦笑する。
「ま、俺達だけで話を進めても仕方ねーから、分かってることを説明してやるよ。まず、この和歌の
意味は大まかに言うと神を称える歌なんだ。ただ、禍つ神という神のすることは人間にはいかに
しても止められない、どうしようもない。この神の心を静めなければ、どうして災いを逃れることが
出来ようか、というものだ。禍つ神というのは現代語訳して疫病神ってトコか」
「和歌になぞらえて、何かを予告しているととれなくもないわけです」
 コナンの言葉を受けて明智が補足する。
「んで、この和歌は一般にはあまり知られていない、出雲神話を舞うとされる神楽っちゅーヤツの
中に使われるセリフらしいんや。神楽は、まー分かり易くゆーたら能みたいなモンで、全国にも
あンねんけど、神話をそのまま取り入れとるのは出雲地方と石見地方だけらしいで。したらこの
差出人は神楽の関係者っちゅーことや」
「出雲神話って、ヤマタノオロチとかゆー蛇のヤツ?」
「なんや知っとるやんけ、金田一も。とぼけよってからにー、結構調べとるな」
「あははは、まぐれだよ」
 流石に、最近やった某ゲームのストーリーにあったとは口が裂けても言えない一である。
「不思議な点はまだ有るぜ」
「そうです」
 明智が手紙の表面を人差し指でなぞった。
「この手紙には切手を貼った跡が有りません。つまり直接届けられたものです」
 一は首をかしげた後少しして、
「東京に友人がいれば、そいつんとこに一回りでかい封筒で郵送して、届けてもらえばいいじゃん。
大阪は行こうと思えば日帰りできないトコじゃねーだろ?」
「最初はそうかと思ったんだけどな。これって和紙だろ?」
「それが? ……あ、そうか!」
「せや、手すきで作るからには指紋がつかんわけがないねや」
「これも科捜研に調べてもらったのですが、和紙や封筒からは、受け取った私以外の指紋がまったく
発見されませんでした」
 一は右手を上げて明智の言葉をさえぎると、
「ちょ、ちょっと待ってくれよ! じゃあこの差出人が、指紋がつかないように和紙を作って手紙を
出したという可能性は……?」
「手袋をしていればその毛跡なり革の跡なり残っている。そんな痕跡もなかった。仮に本人が
手紙を届けにきたとしても、指紋を残さないために手袋をしていれば、そんな不審人物すぐ目に付くぜ」
 コナンがポケットに手を突っ込んだ。事実の矛盾を指摘する時のくせらしい。
「補足しておきますが。私や服部君はともかく、江戸川君こと工藤君や、金田一君の自宅へ
正確に届けられるということもありえません。金田一君が諸々の事件に関わっていることは、
マスコミにも伏せていることなのですから」
 一はうなずいた。自分もその点が引っかかっていたのである。
「つまり、この手紙の存在自体がありえんっちゅーことになるんや」
 四人はそこで押し黙った。
 存在が矛盾する手紙。
 何かを示す和歌。
 嫌な予感をそれぞれが払いのけようとしていた。


「んじゃ、行ってくるでー!」
 見送る父親に大きく手を振って、服部とコナンが後部座席に乗り込んだ。一も助手席に乗り込み、
シートベルトを着用する。
「今日は松江市にある島根県警に挨拶に行ったらそこから桜井市に移動、宿泊です。湊町は
桜井署の管轄らしいんでね」
 そう言って明智が車をスタートさせた。
 そして、嵐が彼らを待ち受ける。



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