多分花鳥風月金田一、コナン的読み物ページ小説置き場オリジナル小説目次→総理大臣、ただいま仮免中!6-1


「ちょっとお願いがあるんですけどォ」
 数回のコールの後応じた声は、土砂降りの日、車に泥を撥ねかけられたかのように
不機嫌だった。
 今から寝るところだったんだが何だね、と言うのへ「用意していただきたいものが」と
返すと、起き上がる気配がした。興味をそそられたのだろう。
 希望を伝えると「今からかね」と驚いた声。
「ええ、今でないと美奈子困っちゃうかなーって」
「わかったわかった。確かうちの省でも確保しているはずだから、至急に手配しよう」
「川内センセありがとー」
 携帯にチュッとしてやると、
「いやいや大したことではないよ」
 おそらくその向こうでは、鼻の下を思いきり伸ばして目尻を下げているだろう。
 やだ、想像したら気分悪くなっちゃった。
「しかし何だってそんなものが必要なのかね」
「ううーん、お願い聞いてもらえたから教えちゃう。うまくいけば総理がね、辞める
ことになるかもー」
「本当か!」
 その声と共に砂袋を二階から投げ落としたような音がした。気のせいか、カエルの
ひしゃげたような声も。
「あらっなあに?」
「いやすまんすまん、ベッドから落ちてしまってね、大丈夫」
 いい年こいて何やってんのよ。
 ばっかじゃなーい、と聞こえないようにつぶやいて、「じゃ、宜しくね。次期総理候補」と
言ってやると豪快に笑う声が聞こえて来た。頭痛が起きないうちに急いで切ると、
「結城、出掛けるわよ」と離れて見張りをしていた秘書に声をかけた。
 静かにうなずいて結城がやってくる。
 廊下の向こうから、時を告げる壁時計の音が聞こえて来た。二回鳴ってその後は沈黙。
「いよいよ、大詰めなのね」
 足元からむず痒い感覚が這い上ってくる。
 きっとこれは寒さではなく、アドレナリンが全身を駆け巡っているのに違いない。
 踏み出したヒールの先が電灯にキラリと光った。


「報告致します」
「こちら“チャイルド”。報告せよ」
「先ほどのアプローチにより、滝本圭は単独行動に出たもよう。注意されたし」
「了解、通信終了」
「了解」


 自分が方向音痴だというのは良く分かっている。
 なんせ高校に入学した時だって、一ケ月経っても一号棟と二号棟を間違えるのは
しょっちゅうで、移動のとき先に教室で待っていたが誰もやって来ず不思議に思って
いたら、姿の見えない自分を探して学校中大騒ぎになっていたこともあったのだ。
 だけど、地図があるのに迷うというのはどうなのだろう。
 しばらくここだと思われる場所をウロウロしてやっと分かった。――見ていた地図が
逆さまだった。どうりで文字が読めないと思ったわけだ。
 説明するのに日本語以外書くワケないよねー。
 誰もいないのに笑ってごまかして、やっと正しい場所にやってきた。多分。
 少し前に通り過ぎたビルの外にある時計が、午前二時半を指していた。二時間も
むだな時間を過ごしてしまったようだ。
 すぐ戻るって書いてたのに帰ってこないから怒ってるかなぁ。プリン、食べられ
ちゃったかな? 手作りのだから結構おいしいんだけど。
 街灯がだんだん少なくなって来た。自転車に取り付けられていた懐中電灯で地図を
照らして見ると、目印の円筒形ポストが目の前にある。自転車にまたがったまま地面を
蹴ってずりずりと移動すると、数メートル先に脇道がある。地図にここと示されていな
ければ、荒れ放題の草が死角となって見過ごしてしまいそうだ。
「脇道って、コレ……」
 絶対ここは東京じゃないと思った。今まで来た道も十分人気のない――こんな
深夜なら当然なのだが――ところだったのに、その道は暗く先が曲がりくねっていて
よく見えない。周囲には密集した木々が気味の悪い音を立てている。魔女が笑う
ような声がして一瞬固まったが、よくよく耳をすませてやっと鳥の声だとわかった。
 どうして夜に聞くと、あんなにも怖くなるんだろう。ホラー映画で、鳥の鳴き声に
ぎょっとするのは大抵夜のシーンだ。
「お、お化けでたらヤだなぁ……」
 何でこんな先に倉庫を作ったのか、そんな不便なことをするから倒産したんじゃないの、
とつぶやきながらペダルに足を乗せた。靴もペダルももう泥だらけだ。返すときには
ちゃんと掃除した方が良いだろう。
 誰か同じ方向の人いないかなぁ、と見回してみたが、懐中電灯の光に驚いて三毛猫が
素早く横切っただけだった。
「じゃ、行こうかな……」
 勇気づけに毎週欠かさず見ているアニメの主題歌を口ずさみながらペダルをこいだ。
 道はわだちの跡があることはあるものの、結構草が生い茂っていてしかも下り坂だから、
気を付けないと転んでしまいそうだ。おかげでそっちの方に気をとられて怖さは気に
ならなかった。
 急に森がひらけてひざほどの草むらの中に小さな倉庫が見えて来た。確かに地図の
名前と傾いた看板にある文字が一致している。白い看板に黒いような字だから浮かび
上がって見えるのだ。
「あれじゃーん!」
 つい嬉しくなって指さしてみたりする。
「どうしよ。確かめてから電話した方がいいかな。先に電話入れた方がいいかな」
 ポケットに手を突っ込んだ。
「あれ?」
 つかんだのはハンカチで、反対側のポケットを探ってみても、ない。
「あれぇー」
 やっと携帯電話を落としたかもしれないということに気づいて圭は頭をかいた。
「テレカ持ってないしなぁー……。あ、そうだ!」
 パンツのポケットを探ってみると、財布はなかったが十円硬貨と百円玉が数枚ずつ
出て来た。
 昼に雑誌を買ってそのお釣りを入れてたんだっけ。あれ、財布はどこ?
 しばらくゴソゴソやってみたが財布もない。
 あ、志保姉ちゃんがタバコ買うからお金貸してって言って、そのまま財布ごと
取られたんだった……。
 とりあえず落としたのではないということが分かって安心だ。
 それはそうと、今度は公衆電話を探さなければならない。
 しかしこれは心配する必要がなかった。倉庫の外側に赤い色の電話を発見した
からだ。
 かけよって先に十円を数枚入れて、人差し指をボタンに近づける。が――。
「あれ、首相官邸って何番?」
 誰も答えてくれるものはない。
「あ、そうだ、こういう時は一〇四だっけ」
「――はい、電話番号案内です」
「あ、あのー、首相官邸の電話番号って分かります?」
「はい。ご案内いたします。よろしいですか」
「あ、はい」
 地図を取り出して胸ポケットからボールペンを引き抜くと、音声ガイダンスの番号を
書き留めた。
「これってどこの番号かな。ま、かけてみればいいか」
 十円玉がなくなったので百円を入れてかける。結構長く待たされた後、応じる
声があった。
「はい、総理官邸でございます」
 聞いたことのない声だ。官邸にかけることなどないから当たり前か。
「あのー、僕、総理ですけど」
「はあ?」
 何だか思いきり馬鹿にされたようだ。
「いえ、あの、僕滝本圭です。誰か、起きてる人いたら代わって下さい」
「お待ち下さい」
 変に思われたかな。
 このメロディは何だろう、と思いながら待っていたら二枚入れた百円玉のうち一枚が
落ちる音。
 まだかなぁ。
「失礼しました、おつなぎします」
 プッという音がして、静まり返っていた向こうが不意にざわざわと騒がしくなった。
結構起きている人はいるらしい。
「首相官邸事務所です」
「あ、僕ですけど」
「総理? お休みになられたはずではなかったのですか!」
「え? 違うよ。僕今……ここどこだろ。あのね、話すと長くなってお金足りなく
なっちゃうから省くけど、コンピュータを駄目にした人のいる場所を見つけたかも
知れないんだ。小野田さんに伝えてくれる? 昨日行った、志保姉ちゃんの知り
合いの人の店にいけばわかるからって」
「そう伝えればよろしいので?」
「うん。あ、それからね、冷蔵庫にある――」
 ブザー音の後ややあって、向こうの声が聞こえなくなった。通話時間が終了したのだ。
「ま、いっか」
 プリンは潔くあきらめることにした。


「今の電話は?」
 大臣の一人が不思議そうにこちらを見た。
「間違い電話、のようです。こんな深夜に」
 答えて肩をすくめてみせた。
「困ったもんだね、ただでさえいたずらが多いのに」
 そうですねと言って、足早に部屋を出た。


 受話器を戻すと目の前にある壁を見上げてみた。
 赤いサビで覆われているものの穴はあいていない。ぐるりと回ってみたけれど、
一応中に雨風が侵入しない程度には無事らしい。
 どうしよう。でも大介さん達がきて何もなかったら余計迷惑かかっちゃうしなぁ……。
 大体よく考えたらそれが別のメーカーのものだって可能性もあるわけで。
 でもそっくり同じものを作ったら確か、著作なんとかで怒られるんだよねぇ。
 あの画面の端に映っていた、床に転がる人形。その足に刻んであったマークは
自分の部屋にあるものと同じだったし、さっき看板についていたものでもある。だから
確信はした。しかしさすがに一人で来るのは無茶だったかなと思う。
「でも、ずっと気にしてるより、確かめて間違いだって分かる方がいいし」
 一人で納得して入り口の前に立った。


「……クソ、案外プロテクトが堅いな」
 聞き飽きた警告音とともに画面に表れるメッセージを眺めて、大介はマウスをほうり
出した。これで二十六回目のトライ失敗だ。
 ソファに座った志保が、新しい煙草をひょいと出した。トントン、とテーブルで弾いた後
火を付ける。
「一本もらっていいかな」
 立ち上がって近寄ると彼女は少し驚いたふうだったが、返事の代わりに箱をこちらに
差し出して来た。
「ありがとう」
「言っとくけどきついよ?」
「知ってる」
 火をもらって一口吸うと、「中学のとき初めて吸ったのがこれだった。煙草をやるのは
それ以来だ」
「へえ」
「……何のことはない、成長期に良くある知的好奇心ってヤツだけどな」
 志保はこちらをじっと眺めている。大介は向かい側に腰を下ろし煙を吐き出した。
「……一つ聞いていいかな?」
 志保が右手の人差し指を突き出した。
「あたしはあまりパソコンのことを知らない。だけど今官公庁のコンピュータがダウンして
手の付けられない状況だってのは何とかわかる。その、他の奴らが手も足も出ない
シロモノをあんたは簡単に解除してみせた。後は相手の方に逆ハッキングをかける
だけなんだろう? あんた、何でそんなことが出来るのさ?」
「……プログラム、だよ」
「プログラム?」
 灰皿の縁で弾いた灰がころんと中に落ちた。中学の時は、黒い紙が何故燃えると
白くなるのか不思議に思って、吸いかけのジョーカーをあわてて消して図書館に
駆け込んだ。今のようにインターネットも普及してなかった時代だ。
「圭が総理になる前からハッキングのことは問題になっていた。このままのさばらせて
おくと、いつかとんでもないことになるかもしれないと基山さんが俺に調査を命じたんだ」
「何で警察じゃなくて?」
「――ちょっと、気にかかる事があってね」
 志保はふうんと言って目で続きを促して来た。短くなった煙草をやっと気が付いた
ように灰皿に押し付けて消してから、再び新しいものに火を付ける。
「一年かかったよ。恐ろしく用心深い相手だった。目的がホームページ書き換えに
見せかけてウィルスを侵入させることだと分かってはいたが、それを解除するための
プログラムを急ぎ作成中に、土曜の騒ぎが起こったってわけだ。あの時は完成して
いなくて実行に移せなかった」
「え、じゃあ」
 志保の瞳が輝きを帯びて来た。圭風に言うと、興味を引かれる出来事にぶち
あたったというところだろうか。
「昨日昼間家に戻った。その時何とかできあがったのが、今やってるやつだ」
 大介の視線に合わせて志保がデスクの方を見た。
「そんなぶっそうなものを作ってたってワケ」
 秘書室から続くドアを開けて今田が立っていた。その右手に光っているのは――
拳銃だ。形状からして警察官の携行するもの。まさか!
 大介は立ち上がった。後ろでも志保の立ち上がる気配。
「大下さん!」
「騒がないで!」
 ピシャリと今田が言った。言葉で人を殴りつける、そんな口調だ。
「私達は誰も傷つけるつもりはないの。計画が終了するまでおとなしくしてなさい」
「何を……」
「とりあえずこんな危険なものはなくしておかないとね」
 手を勢いよく打ち合わせたような音が数度して、パソコンから煙が一筋立ちのぼった。
軽い爆発音とともに火花が散る。火事にはならないで済んだようだ。
「これで中身もイッちゃったわねぇ。危険物処理成功ってトコかしら」
 危険なものと知っているからには、この部屋に盗聴器があったのだろう。
 不用心だった! この女ならいつここに出入りしていてもおかしくなかったのに。
「おい、テメェもしかして……」
「スパイ、だろうな」
 振り向かずホールドアップしたままで大介は言った。
「気づいてたの」
「前総理の爆死事件の時にな。基山さんは出掛けた先で現在地を告げる電話を
ここにかけてきた。俺に心配させないために。その時待機していた人間は全員
秘書室にいたにも拘わらず、あんた一人出ていった。内線電話で会話を聞くため
だろ。その後、前々から仕掛けておいた爆弾を爆破させた。爆弾は時限式ではなく
遠隔操作型だったらしいな。これならスイッチを持つ人間に連絡するだけで事は
済む。秘密に気づかれたか? 法案を成立させないためか? 残念だったな」
「それで確信したわ。前総理の声をまねて国会を召集し、法案にサインしたのは
あなたね」
「騙したのはお互い様だろ。文句を言われる筋合いはないな」
 きつく眉を寄せて今田が唇をかんだ。こちらに向けた銃口が震えている。
 ちょっとしたきっかけで引き金を引くかもしれない。
 警官に支給される拳銃は命中率の悪さで有名だが、先ほどのパソコンのように
万が一当たらないとも限らない。第一後ろには志保がいるのだ。
「あのさ、んなこたぁどうでもいいんだけどよ」
 大介はギョッとして思わず振り返った。テーブルをよけて志保が歩いてくるところ
だった。今田も呆気にとられている。
「圭、知んねーか。おたくらと接触したとかで外に出ていった。残されてたメモに
ヒントをつかんだとか書いてたな」
「何であなたに言わなきゃならないのよ?」
 今田が志保に照準を合わせた。二人の間は約一.五メートル。外したくても
外せまい。
「あんなんでも大事な弟だからな」
「じゃあ教えてあげるわ! あの子ねぇ、のこのこ私達の潜伏場所に出掛けて
行ったわよ! 今頃捕まって殺されてるんじゃないかしら!」
 志保が一歩踏み出した。危険な距離だ。
「撃たれたいの?」
 ヒステリックに今田が叫ぶ。普段の顔からは信じられない形相で。追い詰め
られると迷わず武器を使うタイプだ。
「ケガが怖くてなあ、ゾクができるかボケ!」
 まさにその瞬間、ドラマのような発砲音がして大介は目を閉じた。
「――ちょっと、あんた何やってんのさ。両手上げて目ェつぶってたら間抜けだよ?」
 あわてて目を開けると今田が手を押さえ、しゃがみこむところだった。素早く志保が
床に落ちた拳銃をけり飛ばす。そして、ドアのところには――。
「大下さん!」
「……ニューナンブもまだまだ捨てたもんじゃないなぁ」
 寄りかかるようにして体を支えた大下が立っていた。たった今撃ったばかりの拳銃を、
目を丸くして眺めている。発砲しておいて、当たったことが信じられないらしい。
「ここら一体に催眠ガスがまかれてたぜ。入り口じゃ俺の部下が転がってるし、
隣の会議室じゃ、白根さん達が仲良くお休み中だ。びっくりしたよ」
「あんたは?」
「気づいてそう吸い込まないうちに換気したんで何とか意識を保ってるよ。話し声の
する方へやってきて正解だったな」
「……安易な発砲は問題になるぞ」
 今田を取り押さえながらそう言ってやると、「このねーちゃんが撃たれそうだったから、
正当防衛かつ正当な使用を主張するぞ、俺は!」
「人のせいにすんじゃねー!」
 志保が鉄拳をふるった。「ほら、目が覚めただろ」
「ひでー。圭が怖がるのも良くわかるぜ」
 それでも意識覚醒に役立ったらしく、秘書室から紐を探してくると今田を縛り上げた。
「しっかし拳銃の前に立ち塞がるなんてよくやるなぁ。俺なんか防弾チョッキ着てたと
してもイヤだぜ」
「――あ? やっぱチャカだったのか。さっきコンタクト片方落としちゃってさ、全然
見えなくて。はったりかと思ってた。ああ、あった」
 ソファの横にしゃがみこんで拾い上げてみせ、ぺろりとなめて右目に入れた。
大ざっぱというかいちいち気にしないというか。
「あたし裸眼だと〇.五ないんだよ」
「さいですか……」
 大下が呆れたようにため息をつくのを無視してこちらを向くと、
「しかしこれで手がなくなっちまったな。こいつの言う通り圭も気になるし」
「そう悲観することもないさ」
とポケットからCD−ROMを取り出してみせたら、志保が「あーっ!」と叫んだ。
「休憩している間にまたハッキングされても何だと思ったからな。抜いといて正解だ」
「おし! やろうぜ!」
 足元から低い笑い声が聞こえて来た。
「今更何が出来るの? あの子、死んだのに? 馬鹿な子ねぇ、あんなところに
一人で行くなんて」
「黙れ」
 大下が引きずって行った。「こいつ、突き出してくるわ」
「よろしく」
 会議室にある予備パソコンを取りに行こうとして、志保があごに手を当てて
考え込んでいるのに気づいた。
「どうした?」
「――いや、ひっかかるんだ。あの女今、『あんなところに』って言ったよな? 
圭の行った先は新宿だ。ぶっそうだ、とか危なっかしいという意味で確かに
『あんな』という指し方もするが……待てよ」
 大介は黙って眺めた。志保の発想は圭とまた違った意味で鋭いところがある。
 これまでの会話でもうすうす思っていたが、もしかしたら圭の発言は思いつき
ではなく、知らず知らずのうちに培われたものかもしれない。彼を囲む姉達の
着眼点は、参謀のそれといっても差し支えないのだ。
「私達、って言ってたよな……この騒ぎのことから考えても、コンピュータに詳しい
奴、爆弾に詳しい奴、それに参謀と頭、偵察や特攻なんてのは必ずいるはずだ。
それに要となるコンピュータも数台」
 暴走族の元頭というだけあって、チーム編成には詳しいようだ。薬学科に
進学するには惜しい才能だと思った。
「そんだけ大掛かりの人数が潜伏できる場所なんて新宿にはねえ! 不法滞在者が
多い町だからな、怪しいトコはサツが目ぇ光らせてんだ。てぇことは――」
「ヒントを新宿に確認しに行った。そしてそれは圭の知っている場所」
 最後まで二人のセリフがピッタリと合った。
「そこからまたどこかに向かったんでしょうね」
 大介の言葉にも反応せず志保はデスク上の電話に走り寄ると、すぐにボタンを
プッシュした。数秒の沈黙ののち、
「非常召集だ! 寝てる奴全員たたき起こせ! あたしはウチの奴らを集める!」
 受話器をたたきつけるようにおいて大介の前を通り過ぎる。
「警視庁に言ってヘリを出させましょう」
「ありがてぇ。けど、職権乱用じゃないのかい?」
 大介は肩をすくめて、
「総理救出の為にヘリを一台出すくらいで、誰にも文句は言わせませんよ」
 驚きの表情を笑い顔に変えて志保は、
「やるねぇ」
と言った。
「俺はここで侵入を試みることにしますから」
「ああ、分かった」
 ドアから出かけて振り向くと、
「……圭は絶対生きてるよな?」
 初めて見る、不安そうな顔だった。大介は黙ってうなずいた。


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