多分花鳥風月金田一、コナン的読み物ページ小説置き場オリジナル小説目次→総理大臣、ただいま仮免中!6-3


「成功」
「だ――小野田秘書官ですか?」
「総理。ご無事で何よりです」
 はがき大ほどのテレビ画面をあわててのぞき込むと、大介がパソコンの前に座り、
笑顔で右手の親指を立てている。背景からすると、執務室にいるらしい。右隅に
自分が映っていることに気づき顔を上げたら、目の前にテレビカメラのレンズが
迫っていた。美奈子が横から「笑って笑って」と口を挟む。そんな場合じゃないだろう、
と思いつつスマイルを浮かべる日本人の習性が悲しい。
「な、何が起こっているんだ!」
 動揺の色を隠さずキングが叫んだ。答える代わりにメグ達が衝立を蹴倒し、
その向こうのコンピュータを見えるようにした。
「プログラムが!」
 軍服達の顔色が変わった。小太りの男が特攻服の中をかきわけるようにして
走り寄ると、「キング! 我々のコンピュータに何者かが侵入しています! もの
すごい数です!」
 最後は声が裏返った。数人があわてて駆け寄る。そして画面をのぞき込み、
へたりこんだ。
「我々の、計画が……。完璧だったはずが……」
「その過信が命取りだったな」
 大介がテレビの中から話しかけてくる。カメラがキング達の姿をズームで映した。
それを払いのける気も失せているようだ。
「お前が生きて来たような、力で押さえ付けることが美学とされた時代は終わった
のさ。ゲーム、オーバーだ」
 その言葉がキングを支える糸を断ち切ったかのように、彼もまた床に崩れ落ちた。
特攻服の間から歓声が上がる。
「おう、やっとサツの到着だ!」
 入り口や穴からドヤドヤと黒い服の男達が入ってきた。先頭にいるのは――佐々木だ!
「総理、ご無事で!」
「皆さんが守ってくれましたから」
 ぺこりと頭を下げると、歓声が一段と大きくなった。
「あの、あの人たちって誰ですか?」
 佐々木は声をひそめて「SATです」とだけ言った。
 SAT……ああ、えーと警察のすごい人。
「皮肉なものです。彼らのハイジャック事件によって結成された警視庁SATの二度目の
出動が彼らの子供相手とは」
「え?」
 佐々木はつぶやくようにそう言って、軍服達に次々と手錠をかけるSATのところへ
近づいて行った。
「君達は何て無茶をするんだね! 頼んだのはここまでの誘導だったハズだ!」
 向こうで堅そうなヘルメットを被ったSATの一人がメグ達を叱り飛ばしている。
しゅんとするかと思いきや、メグは顔を上げて、
「だってー、お巡りさん達車の運転トロイんだもーん。特隊も大分スピード落として
たのにさぁ」
 SATが口をパクパクさせた。次の言葉が出てこないらしい。特攻服の間から
爆笑が起きた。
 キングの方を見ると、警官たちが走りよって手錠をかけているところだった。
「一件落着、と」
 志保がタバコを取り出す。
「ちょっと、テレビの前ではやめときなさいな」
 美奈子がそれを奪った。自分がくわえると、「あーハタチ過ぎててよかったぁ」と結城に
火を付けさせている。志保は肩をすくめてこちらを見た。なんだありゃ、という顔だ。
「総理」
 再びテレビに呼ばれた。志保に差し出されテレビを受け取ったものの、カメラと
どちらを見たものか迷う。志保が「カメラ目線にしときな」と言って顔を向けさせた。
横目で確認すると、テレビ画面右下に映る自分はちゃんとカメラに顔が向いている。
 ああ、これテレビ局につながってて、てことはこの画面も放送されてるのか。
「お疲れさまでした」
 レンズを見ているから大介がどんな表情をしているのか分からないが、声からして
微笑んでいるだろう。
「あ、いえ、だ――小野田秘書官もご苦労様でした。あの」
「何か?」
「どうやって、コンピュータ直したんですか」
 いやはや、と苦笑する声がした。その口調からして絶対テレビを意識している。
「――総理ならどうするかと思いまして。国民にハッキングを呼びかけました」
「えぇー!」
「このパソコンを媒体にして、テロリストのパソコンに忍び込める挑戦者を募集した
のです。失敗したら首が飛ぶところでした」
 後ろで美奈子が「あいつ、やるわねぇ」とつぶやいた。
「そうですか。えっと、じゃあ、」
 深呼吸をして髪の乱れを直すと、
「協力して下さった国民の皆さん、ありがとうございました。皆さんのお陰で、この国は
大丈夫になりました」
「バカ! それを言うなら救われました、だ!」
 志保が怒鳴る。後ろで大爆笑が起きた。
「この辺にしておきましょう」
 美奈子の言葉でテレビカメラのレンズが下を向いた。中継を終えたらしい。美奈子は
そのまま志保に近づくと、
「私が考えた生中継、途中で官邸に接続したの?」
「逆ハッキングを国民に呼びかけるために、テレビ局と相談してた時にな、そこの
スタッフが生中継の予定が入ってるって教えてくれたんだ。それで」
「成る程」
 もう一度、ステキとつぶやいて美奈子はキングたちの方を見た。丁度連行されて
いくところだった。
「あ、ちょっと待って下さい」
 圭が走りよっていくと、キングや他の軍服達ががゆっくりと疲れ切った表情を上げた。
脇を警官に支えられているが、その手を離したらきっと立ち上がれないのだろう。
「あの、僕、思うんですけど」
「?」
「こんな、無理やりな力とかに頼らなくても、自分達の主張って出来たんじゃない
ですか」
 キングが鼻で笑った。目の前に立っている佐々木を見て、
「あのときお前と同じことを言った男がいたよ」
 佐々木がハッと体を堅くするのが分かった。
「お前達みたいに、地位や権力を持っている人間には分からないだろう。――何の力も
持たない人間が主張したところで、誰も聞きやしないさ」
「それは――」
 佐々木が言いかけたのを遮るようにして圭は足を踏み出した。まっすぐキングに
向かい合う。
「その人は多分、こう言いたかったんだと思います。陰でこそこそするんじゃなくて、
選挙に出て自分のやりたいことを訴えるとか、直接偉い人と話し合うとか、そういう
努力をしろと言いたかったんだと思います。出来ることをやりもしないで反論したって、
説得力ないですよ。正義って、語るだけじゃダメで、どっちかっていうと、周りの人が
決めるものじゃないのかな」
 キングが静かに目を伏せた。肩が震えている。笑っているのかと思ったら、声を
殺して泣いているのだった。
「お前があの時その言葉を言ってくれてたら、もっと早くに救われてたかも知れないなぁ」
 そうしてキング達は、引きずられるようにして連れて行かれた。
 彼らは間違っていたのだろうか。――僕は正しかったのだろうか。
 自分が判断してはいけない、ふとそう思った。
「総理」
 肩に手が置かれた。振り向くと佐々木が目をうるませて立っている。
「ありがとうございました」
 そう言って深く頭を下げると、キング達が連行された方へ走って行った。
「あんたはよくやったよ、実際」
 志保が近寄ってくる。
「そうね。あんなことするとは思わなかったわ」
 反対側から美奈子がやってきた。志保は不審げに彼女を見ると、
「ところで。どうして圭を助けてくれたんだい?」
 美奈子が驚いた顔をして手を口に当てた。
「あら、私助けてなんかいないわよ。面白そうだったからちょっかい出してみただけ。
そうそう」
 美奈子は圭の右手を握ると
「これ、返してね」
「あ、おかげで助かりました!」
 それを結城に渡して、美奈子はこちらに向き直った。
「びっくりしたわぁ」
「え?」
「本気にしてると思わなかったんだもの!」
「何がですか?」
 結城が銃口を上に向けた。そのまま引き金を引く。
「ちょっ――」
 カチリという音とともに炎がともった。
「良く出来てるでしょ、このライター」
――圭は、その場にへたり込んだ。
「やけどしなくてよかったですね」
 本気なのか冗談なのか分からない顔で結城が言った。
「じゃ、私パトカーに乗せてもらって帰るわね」
 美奈子がくるりときびすを返した。そして、「前総理の――お父さんの仇をとってくれて
ありがとう」
「え?」 
 聞き返した時にはもう、「佐々木さぁーん、パトカーに乗せてぇー」と跳びはねながら
駆け出して行くところだった。
「あの方は、琢磨家の養女なのです」
 結城の声が聞こえた。彼は目礼した後、美奈子の方へ走って行った。
「世の中、いろいろな事情があるんだねぇ」
 ポケットからタバコを取り出しながら、志保がつぶやいた。
「志保さん! あたしらも引き上げましょう!」
「おう!」
 元気良く答えた志保は圭の腕をつかむと、そのまま強引に引っ張って歩きだした。
「あたたたた、志保姉ちゃん痛いよ!」
「ボケ! どんだけあたしらが心配したと思ってんだ!」
 思いがけない言葉に見上げた姉の頬に、キラリと光る粒があった。


「――どうして助けて下さったんですか」
 聞こえてくる声は言葉とは裏腹に刺々しさを隠そうともしない。
「別に。総理が命乞いする瞬間を撮ろうと思ったら結果的にああなっただけよ」
「そんな計算間違いをするようには思えませんが」
 つまりは何かたくらんでいたのだろう、という響きだ。
 まぁ最初はそのつもりだったけどね。
「私ねぇ、面白いもの手に入っちゃったのよ」
「……」
 沈黙の向こうに訝しむ空気。そのまま続けてやることにした。
「前総理が亡くなる前の電話、声紋鑑定の結果偽者だったんですって」
「……取引ですか」
 流石に理解が早い。
「これでお互い弱みはナシということで。私、誰かに行動制限されるって嫌いなのよねぇ」
「……」
 電波が途切れたかと思うほど待たせた後、「ではまた貴方の弱みを探しておきます」と
いきなり通話が切れた。
「ほんっとに憎たらしい奴!」
 耳から離して思わず握り締めたら赤いボディが乾いた音をたてた。


 人間、こんなにも激怒することが出来るのかと思う。
 さっき「このまま家で着替えて受験に行く」と別れた志保の話では、官邸を出る直前
大介は憔悴しきっていたという。
 今目の前で説教している大介は、本当にこれが先刻まで史上例を見ない頭脳戦の
中にいた人間か、と思うほどエネルギーを使っている。しかもどこから補給しているのか
知らないが、テンションは上がる一方だ。
 圭は初めて姉達より怖い人間の存在を知った。


 入る前から室内の音が聞こえてくるのは初めてだ。しかも怒鳴り声。
「本当にそれで出るんですか」
 確認というよりは殆どあきらめている声が後ろからする。
「だって小野田さんがお説教長いから、記者会見の時間がきちゃったんじゃないですか」
「……あんなことすれば誰だって怒りますよ」
 ぴくり、と大介の眉が吊り上がったのであわてて前を向くことにする。
 扉の前の警備員がぎょっとした後、平静を取り繕いながら「いいですか」と声を
かけてくる。
 一応スーツを軽くはたいてからうなずくと、ドアが静かに開いていった。途端にヤジの
音量が上がる。
 壇上の中野がすぐに気が付いて、「それでは記者会見を始めます」と言った。そして
警備員と同じ反応を示す。吹き出しそうになったがなんとかこらえた。
 中野に矢のような質問――というよりは怒り?――を浴びせかけていたらしい
記者達が口を閉じかけて、圭の方を見、またざわめきが広がる。指をさして隣に
話しかけている者もいた。
「えーと、皆さん、おはようございます」
 バラバラだったが一応あいさつは返ってきた。納得いかない顔とアンバランスだ。
「こんな格好ですみません。さっき帰ってきたばかりなんです。着替えの時間で皆さんを
お待たせしたくなかったので。――まず、一連の騒ぎを起こした人達が逮捕され、
中央官庁及び都内のパニックが終わったことを報告します」
 手元にメモはない。すべて自分の言葉で言いたいから、と希望したからだ。大介ももう、
いつものように「発言禁止リスト」を渡しはしなかった。口頭で二、三情報をくれただけだ。
「この度の騒ぎにつきまして詳しいことはまた、警察から発表がありますのでお待ち下さい。
それと、今回このようなことになりながらも、えと、死者が出なくて済んだのは、国民の
皆さんの協力があったからで、お礼申し上げます。本当にありがとうございました」
 マイクにおでこをぶつけながら頭を下げると一斉にフラッシュが光った。
「総理! 質問ですが」
 ピンクのスーツを着た女性が手を挙げた。いくつもニュース番組に出ている、ある
民放テレビのキャスターだ。
「今回の逮捕劇につきまして、Aテレビでの生中継があったということですが、あれは
一体どういうことでしょうか」
「一歩間違えば取り返しのつかないことになっていたはずですよ」
「命の尊厳を軽視しているのではないですか!」
 それがまるで合図だったかのように質問が飛び始めた。
「あの、生中継は僕も知らなかったんですけど」
「知らないで逃げるんですか!」
「それはあまりにも無責任じゃないですか!」
「――ちょっと、うるさいわねぇ。貴方達、交替でしゃべりなさいよぉ」
 ものの見事に静まり返って、一斉に記者達が後ろを振り返った。声の主を発見した
らしい周囲が距離をあける。
「あれは私の提案よ。だって総理が何しゃべったか分かんなきゃ、また貴方達テロリストとの
駆け引きがあっただの、取引がどうのって書くじゃなーい? それに私が頼んだ時、
ばかばかしいって断ったのは貴方達の方でしょ」
 小指を立ててマイクを横笛のように持ちながら、アイドルが花道を進むように美奈子は
こちらへやってきた。
「自分達が出遅れたからって、ひがまないでよねぇー」
 そう言い残してマイクをはい、と圭に渡すと、スタイルの良さを見せつけるかのような
優雅な足取りで美奈子は出て行った。
 しばらくぽかんと一同は顔を見合わせた後、思い出したように、
「では、総理のその服装は、逮捕劇の後そのまま駆けつけられたということでしょうか」
「演出のつもりですか!」
「第一国民にハッキングの協力を要請するとは、非常識じゃないんですか!」
「完全な責任転嫁ですよ!」
「聞けば暴走族らしき集団もいたらしいじゃないですか! そんな人間にまで力を
借りるんですか!」
「道徳的に問題です!」
 どうしてこう、この人達は答えさせずに質問ばかりするのだろう。
 答えろと言われてもこれでは、口を開く隙すらない。美奈子のように奇抜な登場でも
しない限り。
 ふと左側を見ると、椅子から吉田と白根が立ち上がって首を横に振っている。残念だが
何を言いたいか分からない。一番手前の椅子に座っていた大介がゆっくり立ち上がった。
 無言で手を差し出すので握っていたマイクを差し出したら、軽く咳払いをした後、
「静かにしなさい!」
と一喝した。初めて聞く、彼の大声。
 そんなことをするとは夢にも思わず、キーンという耳鳴りで圭は耳を押さえた。
「質問を答えられないほど矢継ぎ早に浴びせかけるのは、回答を期待していないと
見なします!」
 成る程、そういう言い方があったのか。次は使おっと。
 会場内が静まり返ったのを見回して大介は、マイクを返すかと思いきや再び口元に
持っていき、
「責任転嫁だぁ? 馬鹿なことを言わないで下さい。我々はコンピュータの凍結に伴い
あらゆる手を尽くしただけです。それも総理自らが先頭に立ってですよ? 今までどの
総理が同じことをやったというんですか! ……国民に協力を強制した訳じゃない、
呼びかけただけです。その結果手伝ってくれた国民がいて、何が悪いのでしょうか! 
反論があるならどうぞおっしゃって下さい」
 ざわめきが広がったものの、誰も手を挙げようとする者はいなかった。失礼しました、
という声とともに差し出されたマイクを受け取って、圭は記者達に向き直った。
「……副総理や小野田秘書官を始めとして、警察や自衛隊に動いてもらうよう指示を
したのは自分です。少しでも国民の人達が助かるなら、と思ってやってもらいました。
暴走族とか言いますけど、そういう人達でさえこの国を助けようとしてくれたんじゃない
ですか」
 フラッシュが光る。不思議と落ち着いていた。もう辞めることになってもいい、でもこれ
だけは言っておかないと、と心を決めたら足が震えなくなった。
「わた――僕の家では、出来ることをやれ、やらないのは本当の役立たずだ、というのが
モットーです。僕は最初この混乱を眺めながら、どうして総理になってしまったんだろうと
思っていました。でも、いろんな人に言われて分かったんです。僕は出来ることを
何一つやってないって」
 言葉を切り、息を吐き出しても質問はあがらなかった。
「だから、一番良いと思えることをやりました。それに対して文句を言うのは構いませんが、
皆さんに僕からも聞きたいことがあります」
 フラッシュが止んだ。カメラマンでさえ、言葉を聞こうとするかのように。
「――皆さんこそ、出来ることをやったと言えるんですか」
 空気が一気に上昇するのが分かった。カラオケボックスのドアを間違えて開けて
しまったかのように、場内は怒号に包まれた。
 顔を真っ赤にして「何だと!」とどなり返す記者や、「こうして報道してるでしょ!」と立ち
上がるキャスター。「我々は報道することが使命なんだぞ!」という声も。
 中野が「これで記者会見を終了します!」と言って圭の肩に手をおいた。圭は
思わずそれを振り払った。
 両手を思いきり台にたたきつけると、
「都内の人が困っている時に皆さんは、ここの玄関でただ僕たちの発表を待ってた
だけじゃないですか! それのどこが出来ることをやったんですか? そんな人達に
怒られたくありません!」
と叫んだ。
 全員の動きがピタリと止まった。大介に引きずり出されるまで、圭は肩で息をつく
ことしか出来なかった。


「命をあまりにも軽く見た国家権力」
「国民への責任転嫁図る」
「惨劇をテレビで生中継。政府の威厳はどこに」
「職権乱用 責任は非常に重大」
 次々に新聞の見出しが読み上げられていく。
 吉田達は最早、口をきく気力すらなくしているようだった。一番端に座った美奈子は、
楽しそうにコンパクトをのぞき込んでいる。口紅の色を確かめているらしい。
「以上、本日の号外です」
 大介が席に着いた。圭は誰が発言する人間がいないかと全員を見回したが、視線を
こちらに向ける者もない。
「あの、ごめんなさい……」
 中野がテレビをつけた。先ほどの記者会見の様子が流れ、暴言の嵐という見出しが
つけられている。それを見てため息をついた。
「いーですよ。どうせ野党から不信任案がでますから」
 吉田が憎々しげに口元をひくつかせた。
“それでは、街の声をお聞き下さい”
「消しなさいよ、それ」
 白根が露骨に不快感をあらわにした。中野が「すみません」と詫びてリモコンを持ち
上げる。
「待った!」
 するどい声で大介が制した。
“えー、チョーいけてるよねー?”
“何か、やられたってカンジ”
 マイクを向けられた白髪に黒い顔、といういでたちのコギャルが嬉しそうに笑っている。
“え? でも、テロリストとか危なかったのよ?”
“けど総理が自分で乗り込んでいったんでしょー? フツー怖くてやんないよねー?”
 あわててカメラが切り替わり、別の人間にインタビューが始まった。
“そうねぇ、確かにひとつ間違えば危ないわよねぇ”
 主婦が顔に手を当てて困惑の表情を浮かべる。
“でも、私あの生中継見てたけど、全身鳥肌たっちゃったわぁー。自分が死ぬから
コンピュータを元に戻して、なんて軽い気持ちじゃ言えないわよ。やらせとかじゃない
んでしょ?”
 カメラには映っていないが、レポーターが明らかにうろたえているのが分かった。
すぐに次の対象を探すが誰も同じような答えだったのだ。
“おたくらはいいよね。安全なところから報道してたんだから、言いたい放題だよね”
“まだ十七歳なんでしょ? すごいわよー”
“暴走族って怖い人達っていうイメージがあったけど、あの人達かっこよかったと
思いますよ。総理の人脈って面白いね”
“あたしら今、総理のファンクラブ作ろうって言ってたトコなんだよねっ。総理、
見てるー?”
 見てるよー、と手を振ったが、白根達の冷たい視線に気づいてすぐに手を下ろした。
 しどろもどろになりながら、司会が画像をスタジオに切り替えた。恐らく総理に非難が
集中すると思っていたのだろう、大慌てで手元の紙をガサガサやっている。
「絶対あれ、国民の怒りの声でした、ぐらいしか書いてなかったんだぜ」
 耳元でこっそりささやいて大介が笑った。
「……不幸中の幸い、というところですな」
 渋々といった顔で吉田が言った。
「で、では、ここで警視庁からのコメントをお聞き下さい」
 画面に圭も知っている顔が出た。三原だ。警視総監自らとは!
 コメンテーター達がふふん、と笑った。
 画面の向こうで三原は一同を見回すと、
「我々は、総理の迅速な対応に感謝しています。国民を守る義務を理解して下さり、
最大限の配慮をしていただいたことでスムーズな対処が出来たと確信しています」
 激しいフラッシュの様子が映し出される。映像を停止させて、画面がスタジオ内に
戻ると、ジュースの入ったグラスを倒したらしいゲストの一人が、大あわてでそれを
ふいていた。
 デスクの電話が鳴り出して、中野が立ち上がっていって受話器を取り上げた。
「あ、番組終了前ですが速報です。えーただ今、当局の調査による国民支持率の
数字が出来ました」
 テレビの声に再び振り返った。司会は口を開きかけて目を見開き、隣に「これホント?」と
やった後、引きつった笑顔を浮かべながら、「こ、国民支持率は……な、七十二.五%
とのことです……」
 圭は、人がこれだけ驚愕するのを初めて見た。
「ウワッ!」
「ギャッ!」
「グェー!」
 カエルの合唱のような叫び声を最後に番組は終わってしまった。圭は大介と顔を
見合わせた。その後ろで美奈子がウインクした。
「あの……今連絡がありまして、不信任案は提出を取り下げたそうです……」
 誰も、中野の寂しそうな声を聞いていなかった。              

                               《終》

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