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たどり着けない
いつもなら難なくたどり着けるはずの目的地が、
どれだけ行っても見つからなかったとしたら。
あなたならどうしますか?
怖い話13の「消えかけていた人」に出てきた女友達のFさんとは、よく夜中にいろいろなところへ
行きました。実験の時間待ちだったり、気分転換にと、何故かどちらかがそういう気分になった時
必ず街中で出会うんですよね。彼女から「今からドライブ行かない?」と電話がかかってくることも
ありました。今考えればそういう「霊的な」ものにかかわりそうになった時、2人で行動していたような
気がします。
その日は少し蒸す夜で、せっかくだから遠出しようかということになり、某町の観光名所に行くことに
なりました。そこは比較的山奥なのですが1本道で迷うこともなく、またいろいろな箇所へ行っている
Fさんは運転にも自信を持っていました。
ここから出発すると40分くらいの道のりということで、途中コンビニでお菓子や飲み物を買って2人
たわいない話をしながらそこへ向かいました。
山の中へ入っていくので後続車も段々いなくなり、気がつけば私達の車一台だけが走っている状態。
まあこんな時間に、そんなところへ行くのは私達だけだねと笑いながら、もうそろそろかなーと思って
いました。
ところが。
何時の間にかかけていたCDも終わっていて、気がつけば何故か車の中は静まり返っていました。
山道を上へ向かって走る、車の音が響くだけです。
私は初めて車酔いになってしまい、口を開く気にならず黙っていました。目的地へ向かってくれている
Fさんにも悪いと思って、「あと少しで着くはずだ」と我慢していたのです。
それからどれくらい経ったか…。相変わらず登り道を車は走っています。本当に何も、窓を開けていて
さえ鳥の鳴き声や虫の声一つしません。
そして奇妙なことに、辺りの景色が一向に変わらないのです。左側は山肌、右側は崖、という道がいくら
走っても開けたところに変わりません。もう1時間は経っているはずでした。
とうとう私は我慢が出来なくなって車をとめてもらいました。車外へ出て深呼吸していると、少し気分が
楽になりました。けれども、不気味に静まり返る山に、急に怖くなり車内へ戻ってFさんに「ごめん」と
言いました。
ところがFさんは、ハンドルを握り前を向いたまま一言「おかしいよ」と言うのです。
尋ねると、私達が松江を出発したのは車内の時計で0時。私も自分の腕時計で確認していました。
ところが今現在1時30分を示しています。つまり、倍の時間かけても目的地どころかその町の入り口に
さえたどり着けていないのです。
そしてFさんは「私もずっと気分が悪かったんだけど、貴方が行きたいならと思って我慢していた」と言うでは
ありませんか。私達はお互い気分が悪かったにも関わらず、黙っていたようです。
どちらからともなく帰ろうか、ということになり車を少しバックさせました。すると来る時には無かった路肩が
あり(見落としたということはありません)、難なくそこで車の向きを変えることが出来ました。
それからもとの出発点に戻るまで。驚いたことに30分もかかりませんでした。もちろんスピードもそれほど
変わりはありません。そして不思議なことに、どこから現れたのか山を下り始めてすぐ一台の後続車が現れ、
山を降りきるまでピタリと後ろにくっついていました。真っ黒なボディの比較的大きな車体で、スモークガラス
だったため運転手の姿は確認できませんでしたが、あまりいい気持ちではありませんでした。
結局、それから何度か行こうと試みましたが、突然の土砂降りでそこへの道が崩れたりなどで行けずじまい
です。
あの時私達は一体どこをさまよっていたのか、不思議でしょうがありません。
そして。松江に戻った後、Fさんとこの体験について話をしたのですが、2人とも「何かあまりよくない存在に
邪魔をされたような気がする」という見解で一致を見ました。あの一時間半の道のり。決していい気分では
なかったからです。