多分花鳥風月金田一、コナン的読み物ページ小説置き場オリジナル小説目次→迷探偵は死して名泥棒に助けられる3-3


 あれから三ケ月が過ぎ、城下町松江にもセミの声がそこかしこで夏の到来を知らせ
始めた。
 渋々ではあったが島根県警はダークスターの汚名をそぎ、しかしながら世間からは
「不祥事続出の中の勇気ある英断」と拍手を送られて困惑しているようだった。
 容疑者として逮捕されていた佐藤は解放され、総合病院並びに成田製薬はこぞって
警察の手入れを受けることとなり、関係者は本格的な取り調べの前に――TPCに
一掃された。
 そしてダークスターの姿が紙面から姿を消して三ケ月が経っていた。
 最初は何か大きなことをしでかすのでは、と噂しあっていた世間も現金なもので、
日々紙面を飾る犯罪に次第に忘れ去っていた。

 
「はい、こちら宮小路探偵社」
 口元のマイクで応答しつつ、月乃はウインドウを閉め、車内のクーラーを入れた。エアコンは
好きではないのだが、窓を開けていると騒音で電話が聞き取れないのである。
「その依頼の件でしたら秘書の須佐がお電話差し上げたはずですが。――え? ああ、
旦那さんが電話を取っておられたんですね。はい、そういうことですので。明日、お待ち
しています」
 自動的に通話が切れると、月乃は時計に目をやった。
 午後十時。予定では八時に引き上げる予定だったのだが、人の良い依頼主に解決
祝いと称して遅めの食事につき合わされる羽目になったのだ。
「あー隼人怒ってるだろーなー。今夜はビーフシチューだって言ってたもんなー。隼人
お得意の、俺も食いたかったなー」
 再び携帯が鳴った。
「はい、こちら――足立? 何だよ、こんな時間に? ゲッ、明日数学のテストォー? 
勘弁してくれよー。ああいーよもう。明日もついでに休むって言っとけ。――何、曽田が
今日夕方市内で俺を見た? あちゃー」
 ハンドルにゴン、と頭をぶつける。掛け持ちの事件を終えて、依頼人に報告の電話を
入れているところでも見られたのだろう。その場で説教されなかっただけマシなのかも
知れない。
「わーったわーった。一応範囲教えてくれ。何とか頑張るから。うん、うん。じゃあな」
 月乃は盛大なため息をついた。
「絶対生まれた時に、雪夜が俺の脳みそまで持ってっちまったんだろうな」
 ふと、口元がゆるんだ。
 今はもう意識して、雪夜と見た目の雰囲気を変えるようなことはしていない。その
せいか、ふとした拍子に隼人でさえ、目を見張ることがあった。
 雪夜、元気にしてるか。俺は、なんとかやってるよ……。
 市内を通り抜けて隣町へと続く県道から右に曲がると、そこから宮小路の私道が続く。
しばらく行くと、白壁が見えてきた。
「……? あんなデザインだったっけな?」
 つい最近、誰かさんのせいで倒壊寸前だった家屋を再び改築するハメになったのだが、
白壁まで直した記憶がない。
 しかも、かなりダサい見た目。
「ちょっと待てよ、何で真ん中に一本線が続いてるんだ?」
 不審に思いつつ、月乃は車を走らせた。隼人なら何か知っているかもしれない。
 ようやく門にたどり着いた。いつも通り、手前で愛車を止め、ドアを開けて降りる。
「隼人! 俺こんなデザインにしたっけか?」
 壁を指さし叫んだ。門の前に立っていた隼人はその声に、こちらを向くと走り寄って来て、
「ちょっと」
と月乃の手を引いて門へ引きずっていった。
「何があった?」
 ただ事でない様子に、月乃の顔が引き締まる。
――と、開け放たれた門から玄関へ続く石畳に、誰かが立っていた。隼人が声をかける
までもなく、足音を聞き付けて振り向いた。その体は暗闇の中でも浮き上がっていた。
「雪夜!」
 信じられないまま月乃は叫んだ。その名を。
「月乃ぉー」
 振り向いた顔は、涙でグシャグシャになっていた。
「何で――」
「向こうへ行ったらねー、父さんと母さんが、お前はまだまだ未熟者だから、戻って月乃を
助けなさいって、追い出されたのー」
 グラグラと地面が揺れ出した。視界の隅で、庭の石灯籠が次々倒れるのが見えた。
「……デザインじゃなかったのか」
 どうやらあれは亀裂だったらしい。
「ひどいよー。父さんと母さんなんか――」
 隼人がうんざりした顔で耳をふさいだ。
「大っっっ嫌いだー!」
 改築したばかりの屋敷があっさりと――波に崩された砂の城のように――倒壊した。
 そして月乃はため息をつくと――きびすを返して車を急発進させた。


《了》

【中村から】
月乃という人間がブラコンだったり人によって態度が変わったりという複雑な性格なのは
仕様です。普通にキザな怪盗というのはつまらないので、それなら実は性格悪い方が
面白いだろうと。
これはまったく続編を考えない小説であったので、ひねりも何もありません。単に、探偵が
やりかけていた仕事を泥棒が何故か受け継ぐハメになるとどうなるかなと思っただけです。
古臭い展開ですが、自分としてはなかなか楽しんで書けました。
読んで下さった皆さんに心より感謝いたします。

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