多分花鳥風月金田一、コナン的読み物ページ小説置き場→金田一vsコナン「透明な殺意」第二章1→第二章2




「島根県は監察医制度がありません。田舎だからと変死体を解剖する制度がないのでは、
犯罪を助長する結果になりますよ。つい先日も確か、病院内で事件か事故死か疑わしい
トラブルがあったと聞いていますが」
 事実を指摘しているだけなのだが、それを叱りと受け取ったのか、彼らの表情がどんどん
固まっていく。石になる日も遠くない。
「監察医制度って――」
 またも声を張り上げた一だが、明智とコナンにギロリとにらまれて黙り込んだ。
「あ、いや、私達にも教えていただければ……」
 鑑識課員も恥ずかしそうに頭を掻く。
「監察医制度っちゅーのは」
 服部がホワイトボードにつかつかと歩み寄ると、黒色のマジックを取り上げて大きく
「検死制度」と書き、続けて「東京・横浜・名古屋・大阪・神戸」そしてその下に「行政解剖」
「司法解剖」と書いた。
「元気に暮らしとった人が突然死んだとする。何で死んだかを調べるんが検死制度。警察が
現場でやるンは『検視』や。昭和21年4月1日施行。んで、ここに書いた都市に検死
制度をレベルアップさせた監察医制度が設けられとる。死因を調べる法医学の専門家が
おんねや。せやから、検死を行って死因を調べる。分からん場合は解剖する。これが行政
解剖。家族に一応了承を得んのがフツーや。司法解剖っちゅーのは明らかに犯罪に関わる
死体、もしくは疑いのある死体を、裁判所から鑑定処分許可状っちゅーモンもろて解剖
するんや」
「さすが服部君、完璧な知識です」
「ついでに付け加えとくとね」
 コナンが足元に立っていた。
「島根県では明智さんが言ったように監察医制度が無いから、今回みたいな状況じゃ
ホントは司法解剖は出来ないんだよ」
「エッ、どうしてですか?」
 驚きの余りこんな子供にさえ敬語になっている。
「監察医制度の無い所では、解剖は刑事が要請した場合を除いては、明らかに殺人である
死体に限られるからなんだ。この辺ってあまり殺人なんかないでしょ?」
「そうだけど……」
「だから、もし僕達がいなかったらきっと、救急車呼んで病院行って、急性心不全なんて
ことになってたかもしんないよ。医師法第二十一条も知らないお医者さん多いしね」
「第二十一条……」
 鑑識課員の1人がつぶやいた。「変死届のことですね?」
「そうです。医師は、状況的に不審な死亡について警察へ変死届を出す義務があります。
例えば、脳内出血で運ばれてきた患者が死んだとしても、どうしてそれに至ったのか、
誰かに殴打されたのか、転倒の結果かは医師には分からないわけですから、勝手に脳内
出血が死因と判断、処理されても困るんですよ。殺人などこんな田舎で起きるはずが無い。
そんな先入観によってね」
「……だとしたら、これまでに隠蔽された犯罪もあると……?」
「否定できません」
 ふと、明智は違和感を覚えた。あの時、追求しそこなったことが……。
「県警到着しました!」
 署は、にわかにあわただしくなった。


 どこかで、猛禽類の鳴き声がする。夜になるとこんなにも暗闇に覆われる場所がある
とは思ってもみなかった。大阪でもビジネス街と呼ばれる界隈は深夜人気もなく静まり
返っているが、無論完全な暗闇になるわけではない。
 空には数日前は満月であったろう月が浮かび、澄みきった空気の中星々がきらめいて
いる。そう、月明かりしか照らすもののない夜は、服部だけでなく他の3人にとっても
初めてのことだろう。
「お疲れ様です」
 疲れきった顔で美恵が出迎えた。「だんな様達は今はそっとしといた方がいいと思うんで、
離れで悪いんですけど」
「こちらこそ、押しかけた挙句に申し訳ありません」
 明智が言った。旅の疲れがなければ、もう少しましだったであろう声で。
 服部らは、家の右手側――昼間の作業場は左手側にある――の離れに案内された。
玄関まできれいに砂利を敷き詰めた通路は、どう慎重に歩いても音を立て、向こうの山に
反響して戻ってくる。こんな小さな音でも響くことに、服部は少なからず感心した。
「私と誠さんもここで暮らしてます。さ、どうぞ」
 声を聞きつけたらしく、誠が顔を出した。時間も遅いため、パジャマの上に上着を羽織って
いる。
 成る程、人が近づくと分かるんやな。
「お疲れ様でした」
 軽く会釈して奥の座敷へと案内した。床の間があり、欄間には複雑な模様が施され、
一目で手がかかっていると知れる作りの部屋である。
 あの欄間は風景を彫り入れる彫刻欄間やな……。離れだけでこんな金かけてるん
やったら、屋敷の方も知れるな……。神楽の面や衣装作りを仕事にしとって、こんな
田舎で楽に暮らせるゆーたら、相当財産ないとやっとれんわ。
「ここは職人さんや、神楽の衣装合わせがてら練習にこられる社中の方用の部屋なんです」
 美恵がお茶を運んできた。
「夕食はとられました?」
「いやー、バタバタしてたんであんま食欲わかなくて」
 くたくたと一が座り込んだ。
「何か、お作りしましょうか?」
「いや、あるもんで間にあわすわ」
 自分の非常食が意外な所で大活躍だ。
「それより、お姉ちゃんこそ食べてないんじゃないの?」
 コナンの声に、美恵がフッと疲れた笑いを見せた。
「私は、いらない……。政史君があんなことになって、それどころじゃないもの……」
「美恵、キミはもう休みなさい。明日は警察も来るが、職人さん達も来る。祭りを中止する
わけにいかんからね。忙しいよ」
「うん」
 誠の言葉にうなずいて立ち上がると、
「お茶、そのままにされておいて結構ですから。明日片づけますんで。じゃ、おやすみなさい」
と立ち去った。
 誠はそれを見届けて、下座の方へ座ると一同にお茶を「どうぞ」とすすめて気づいた
ように、
「ああ、あんなことの後ではのどを通りませんね。失礼しました」
「いえ」
 短く答えて一が茶碗に口をつける。服部も陶器の茶碗をおっかなびっくり持ち上げて
みた。なまじ物の値段がわかるだけに、一のように無造作に持てない。両手できっちり
支えた後、数度息を吹きかけて少し飲んだ。程よい温度に淹れられたお茶は本当に
おいしかった。
「ええ淹れ方しとんなー」
 誠が笑った。「これぐらいしか取り柄がありませんが」
「小事を大切にする人は、大抵のことに通じています」
 明智の言葉に誠はそうですか、と言った後、
「あの、政史君はどうして亡くなったのでしょうか」
「はっきりしたことは言えませんが」
 明智も茶碗を手に取った。光を受けてゆれる様子が眼鏡に反射する。
「青酸による中毒死です。やかんに青酸が入れられていた、というのが私達警察の
見解です」
「なんでまた……」
「分かりません。事故か他殺か、自殺――この場合その可能性は薄いと思いますが、
詳しい捜査が行われるでしょう」
「そうですか……」
 誠はしばらくうつむいていたが、
「あのことと何か関係があるんでしょうか」
「あのこと?」
 一がけげんな顔をする。
「数日前、奇妙な手紙が届きまして……。奥様はばかばかしい、と捨てておしまいに
なったのですが……」
「それ、保存していないんですか!」
 コナンが思わず身を乗り出す。
「いえ、僕も気になったんでこっそりごみ箱から拾い上げて……」
 誠はやっと、全員の熱のこもった視線が自分に注がれているのに気づいたのだろう、
目を白黒させながら、
「あの……明日お持ちしますね……」
 四人は大きくうなずいた。


 私は、きっとうまく悲しんでみせる。
 こんなことが起こるなんて信じられない、まさか、突然の死。
 疲れ果てて、まだ現実を受け入れられないって顔で。
 絶対にだましきってみせる。大切な人のために。
 許せない。許せない、あいつだけは絶対。



 前日の疲れをものともせず早朝から起き出した明智は、手がかりを求めて現場へ
向かった。その後ろに服部、コナン、そして一 ――は見当たらない。どうやら、声を
かけても起きない一に業を煮やして、置き去りにされたらしい。
「あ、おはようございます」
 庭の一角でしゃがみこんでいた美恵が立ち上がった。
「昨日は眠れました?」
「夜が静かな場所で眠ったのは久しぶりですよ」
 明智は美恵の手元に目を留めた。
「月桂樹の葉ですか?」
「ええ、都会からきたお客さんなもんで、やっぱり洋食がいいかと思いまして」
「なんや、別に俺ら和食でもかまへんで」
 服部がコナンをこづいて、
「なー、工藤」
「そうだね」
 とにっこり笑って言いつつ、明智が見ていると、しっかり服部の足を踏みつけている
コナンである。
「あいたー!」
「あれ、その子江戸川君って……」
「せや!  朝飯前にちょっと推理でもしとこか」
 はぐらかして服部はロープが張り巡らされた前に立った。
 もうすぐ始まる祭りに向け、神楽衣装・面を作る職人に加えて、神楽を舞う人間の衣装
合わせ、と不特定多数が出入りする為、見張りの警官が1名置かれることになっている。
明智らが近づくとすぐに敬礼で応えた。きっと自分達のことはあっという間に桜井署内へ
広まったのだろう。
「おはようさん。ちょっと見せてもらうで」
 服部が先にロープをくぐる。
「どうぞ」
「ご苦労様」
 明智、コナンも後に続く。
 人気が無く、9月とはいえ早朝の為に冷え切った空気がここを満たしていた。一足先に
秋の訪れといっても差し支えないほどである。
「まず、解明すべき点を明らかにしましょう」
 明智は警察手帳を取り出した。
「謎は3つだ。誰が、何の目的で、どうやって毒を入れたか」
「ま、付け加えるなら何で俺らは無事やったか」
 青酸が混入されていたと見られるやかんは、鑑識の手によって持ち去られている。コップ
なども無論だ。具体的なデータは桜井署から提供してもらえるが、型通りの情報など役に
立たない。真実への近道を行くには、自らの記憶を元に推測するしかないのだ。
「あの状況からいけば、もし政史君が帰ってこなければ、死んでいたのは政良さんかも
知れません」
「てぇことは、狙われたんは政良さんか」
「と決め付けるのはまだ早いぜ。やかんに入っていたのなら無差別殺人の可能性も捨て
切れない」
「まだ現時点では情報が少なすぎて、決定打に欠けます。あの時不審に思ったことも
ありますし……。それに、この死が予告状通りであるとするならば、まだ犠牲者が出る
ことも考えられますよ」
 その時だった。壁に寄りかかって奥の方を見ていた服部が、厳しい顔つきでゆっくりと
体を起こした。
「服部……?」
「誰や、あんた」
 服部の視線を追って明智とコナンもそちらを見る。
 女性が立っていた。肩にかかった髪が風にゆれた。簡易な炊事場の窓を背後にして
いるため、そこから入る光で顔がよく見えない。
「ここにいらっしゃったんですか。あの、朝食の用意が出来ましたって、美恵が」
 誠が入り口に立って、手招きしていた。思わず振り返った明智達が視線を奥に戻した時、
すでに女性の姿はなく、そして、裏手が山である窓は家に遮られて朝日が入るはずも
なかったことに、彼らはようやく気づいたのだった。



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