多分花鳥風月金田一、コナン的読み物ページ小説置き場→金田一vsコナン「透明な殺意」第二章1第二章2→第二章3




「うわーっっうまそう!  いただきまーすっっ」
 団体行動を乱すのはけしからんと、コナンと服部に無理矢理たたき起こされて不満顔の
一だったが、湯気を上げている出来たての朝食を見るや否や美恵達への挨拶もそこそこに
がっつき始めた。
「……金田一君」
 あまりにもみっともないと思ったのか、笑っているが眉は釣り上がっているという顔で、
明智が声をかけた。
「いいんですよ。さ、皆さんも冷めないうちにどうぞ」
 お茶を運んできた美恵が笑う。
「あれ、政良さんらの方はええんか?」
「ああ、あちらは奥様や政江さん達がされるから。私は、お客さんや職人さんの雑用を
するんよ」
「お食事中の所、失礼致します」
 がらりとふすまが開いた。誠が正座して頭を下げていた。
「だんな様がぜひ皆さんにご挨拶を、と言われるのでお連れしました」
 続いて、作務衣姿のがっしりした体つきの男が入ってきた。「あの鐘馗の面そっくりや
……」と服部がつぶやくのを聞いて、コナンはあわててこづいた。
「この度はどうも」
 明智が型通りの挨拶をする。男は姿勢を正すと黙って頭を下げた。数秒の後、巻き
戻したかのように同じ姿勢で顔を上げると、
「政史の父で政和と言います。今回は大分お世話になったようで……」
「いえ、俺達こそ何も出来なくて申し訳ありませんでした」
 今度は服部がコナンをこづいた。
 しまった、つい工藤新一に戻っちまった。
「あの、それでお伺いしたいことがあるのですが」
「何でしょうか」
 政和は彼らを見渡すと、
「薄情な親と思われるかもしれませんが、私は祭りに備えて町内や桜井市の方へ神楽
衣装などの修理にいかねばならんのです。あと少しで祭りになりますけぇ、皆頑張っとり
ます。政史が死んでしもうたのが悲しくないわけはないんですが、祭りが迎えられんと、
皆残念がりますけぇ……。出かけても構いませんでしょうか?」
「問題はないと思います」
 明智は時計に目をやって「今すぐですか?」
「はあ」
「それでは、作業場の入り口にいる警官に一応身体検査をしてもらって――ああ、車
でしたら車中の点検もさせて下さい。一応型通りにしなければならないので、不愉快で
しょうが……」
「とんでもないです。刑事さん」
「はい?」
「早く、政史を死なせたんが誰か、突き止めて下さい。もう、子供を亡くすのは十分じゃけぇ……」
 涙声で後が詰まった。明智達は黙って政和を見守った。深くしわの刻まれた顔が、苦悩の
色を漂わせている。
「いや、すいません。このうちは呪われとるんか、もう2人も早死にしとって……ワシは
こんなじゃけぇ、政良らについとってやれんのが不憫です」
 そう言って、政和はもう一度頭を下げて出ていった。
「……気になりますね」
 美恵も席を外し彼らだけになった時、明智が箸に手をつけるのも忘れてつぶやいた。
「政和さんの口ぶりと昨日の政良さん達の話から考えて、政子さんの他にもう1人、
2ヶ月前に誰かが亡くなった。そしてそれは政和さんの子供」
 少しさめた味噌汁をすすって一が言う。
「事件になっとらんから、死んだ2人は殺人やないにしても、今回のことと何や関係
あるんかいな」
 なあ工藤、と服部がこちらを見た。さあ、と首をひねってから、
「その辺の状況を聞かねーことには、どうにも予測が立てらんねーな」
「まずは美恵さんと誠さんに話を伺うことにしますか」
「あーっっ!」
 一が突然叫び声を上げた。コナン達はぎょっとしてそちらを見た。服部などははずみに
むせてしまい、盛大にせき込んでいる。
「何だよ金田一」
「何ですか」
「何やねん!」
 一はふるふると両手をふるわせて、
「美恵ちゃんと誠さんって恋人どうしなんだろうか!」
――直後、彼は外へ蹴り出された。


「政子奥様と2ヶ月前のこと、ですか?」
 やや緊張した面持ちで一達を見回して、誠は首をかしげた。
「当時僕の母がここで雑用をしていましたが、奥様は祭りの最中に急性アルコール
中毒で亡くなられたとかで……。もともとお酒を飲めない方だったのが、ついつい盛り
上がって飲み過ぎてしまったのではないかと聞いています。それから1年ほどして
だんな様は良江奥様と再婚なさいました」
「良江さんと政子さんは友人やったそうやな?」
「ええ。高校時代からのご友人だそうです。政子奥様がここへ嫁がれて、何度かこの
家にも遊びにいらしたそうですから、だんな様とも顔見知りだったでしょう」
「その祭りには良江さんも?」
 明智の目が光った。
「いえ、良江奥様は確かその当時勤めておられた病院で夜勤をなさっていたそうです」
「……ま、急性アル中じゃ他殺もムリか……。三角関係のセンは消えたな」
 お互い同時につぶやいて、一とコナンは顔を見合わせた。
「んなら次は、2ヶ月前に起きたっちゅー事件は……」
「それなら私がよく覚えてます」
 コーヒーをお盆に載せて、美恵がふすまを開けた。この2人、飲み物を持ってくる
タイミングがすばらしくいい。ふと一は、そんなどうでもいいことを思った。
「この家の前にある竹薮へ、毎年のことなんですけど、近所の人達と山菜取りに
上ったんです。私は家でお昼の支度をしていたんですが、そうしたら山田さん――あ、
近所の人です――が『救急車を呼んでくれ』って言いながら走ってきて、『家内と政美
ちゃん、良江さんががけから落ちた!』って。政美さんは、政良さん達のお姉さんに
あたる方です。結局、良江さんはかすり傷程度で助かったんですけど、政美さんの
方は出血がひどくて、ほらこの辺ってなかなか救急車来ませんから、到着前にはもう
意識がなくて……」
「でもそれって事故だよねー?」
 子供らしく無邪気に続けると見せかけて、コナンは意図的に声のトーンを落とした。
「何で政良さん達は良江さんを憎んでいるの?」
 彼お得意のはったりは、ここでもてきめんにその効果を表した。
 誠と美恵は息を呑んで一瞬押し黙った後、
「これ……私達が言ったということは内緒ですよ。良江奥様は半ば強引にだんな様と
結婚されたもので、政良さん達は奥様をよく思っておられません。奥様の方でも、先妻の
子供でありなつこうともしない政良さん達を非常に嫌っておいででした」
「で、なんやねん?」
 せっかちな服部が先を促す。
「政良さん達は、政美さんが亡くなったのは良江奥様が手当をきちんとしなかったせい
だって思っておられるのよ。元看護婦だから、止血方法も分かってるはずだって。
救急隊員の方の話だと、応急処置は適切であの状況では仕方がないって。誤解なんです
けど、表面的にはつくろってたのが誰の目にもはっきりと敵対するようになっちゃって。
政良さんも、自分が大学に行っていて家を空けていたばかりに……って、政美さんの
ことすごく気にされて。今はまだいいですけど、来年政良さんが海外留学で、本格的に
留守をされる時どうなることやら」
「不審な動きはなかったんですね?」
「一時期政良さん達があまりにもしつこく言うので、一応警察も事件の可能性で調べた
んですけど、山田さんの奥さんの証言で、良江さんはすぐに手当をきちんとされてたって
ことでしたよ」
 美恵はもう湯気のたたなくなったコーヒーを飲み干すと、
「で、皆さんはこれらの事件と今回のこと、関係があると思われるんですか?」
「現時点ではまだ何とも……」
 明智が苦笑する。
「そうそう、昨日のお話で」
 不意に誠がポケットをゴソゴソやりだした。
「これが例の予告状です」
 広げられた紙片をいち早く覗き込んだコナンがハッと息を呑んだ。
「これは怪盗キッドの予告状!」

“マリオネットは
 芽の輪に姿を現すのみ
 怪盗キッド”

「届いた時には、赤いバラが添えられていたんです」
「……なんやこれ。盗みの予告ちゃうやんか……ってオイ、工藤ナニしとんねん!」
 部屋の隅にすっ飛んでいって旅行バッグの中身を散々撒き散らした挙句、コナンは
「あった!」と叫んでスタスタと戻ってきた。
「博士にもらったアンテナ持ってきたの忘れてたぜ。これで、携帯も使えるようになる。
……誠さん、その予告状貸して下さい」
 コナンはそれを受け取ると、「FAX持ってきて正解だぜー」と言いながら一人で何か
やりだした。
「ま、あれは彼に任せるとして」
 明智が居住まいを正して、「ところで誠さん、今日政良さん達にお話を伺いたいの
ですが、祭りの準備で忙しいのでしょうか」
「ああ、今日は大掃除がありますから……警察の方にも昨日そう言って話をされて
いました。夕方ならとおっしゃっておられましたので、その時なら……」
「こんな時にも祭りが大切だなんて、非常識だと思われるでしょう?」
 何時の間にか、部屋の入り口に政良が立っていた。流石に眠れなかったのだろう、
昨日とはうって変わってひどくやつれていた。突然の来訪者達を戸惑いながら迎えて
くれた笑顔は跡形もない。
「仕方ないんですよ……。この辺はまだ迷信が多くてね、祭りを中止したらそれこそ
大災害に遭うって思われてるんです。新町長が就任した年、そんなのは迷信だって
中止になった時もこの辺一帯大水害に見まわれましてね」
 とりとめもなくしゃべると政良は、「すみませんが、今日はご自由になさってていただけ
ますか。夕方から事情聴取ですので、その時に」
 彼らが止める間もなく、政良はふらふらと出ていってしまった。


 おゝ我はこれ、春の疫癘( えきれい)瘧癘(ぎゃくれい)、 秋の血腹(ちはら)に冬咳病(がいびょう)
 一切病の司、疫病とは我が事なり




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